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【保存版】健康診断の基礎知識|総務・人事が押さえるべきポイントをまとめて解説

記事作成日2022/09/08 最終更新日2022/09/08

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健康診断は、従業員への福利厚生やサービスではなく、安全衛生法で企業に実施が義務付けられている重要な取り組みです。近年では、経済産業省が従業員の健康管理を経営戦略の一端と捉える「健康経営」を推進していることもあり、その重要度はさらに高まっていると言えるでしょう。

重要なことはわかっていても、健康診断の実施業務は多岐にわたり注意点も多いので、煩雑なのも事実です。皆さまの会社では、滞りなく進められていますでしょうか?

今回は、そんな大変な健康診断関連業務の効果的な実施に役立つ、企業における健康診断の基礎知識や業務をスムーズに進めるポイントをまとめて解説します。
健康診断について網羅的に知識を身に付けておくことで、うっかりミスや思わぬトラブルを避けることができます。この機会に知識を再確認しておきましょう。

健康診断とは

健康診断は、従業員が心身ともに健康な状態で長く労働できるようにすることを目的として、企業に実施が義務付けられています。従業員の健康管理が行き届いていれば、生産性の向上ひいては業績の向上につながると考えられるからです。

企業には健康診断の実施義務がある

企業には、健康診断の実施(労働安全衛生法第66条)と、結果を把握し従業員に通知すること(労働安全衛生法第66条の6)が、法律で義務付けられています。

【参考:安全衛生法(抜粋)】

※抜粋:e-Gov法令検索「労働安全衛生法

なお、安全衛生法第120条には罰則の定めもあり、健康診断の実施をしないと50万円以下の罰金の対象になるので、注意が必要です。

健康診断の対象範囲

定期健康診断などの実施が義務付けられる対象者は「常時使用する労働者」と、労働安全衛生規則で定められています。また、政府の通達によると、「常時使用する労働者」とは、次の①②の条件をどちらも満たす労働者です。

よく疑問が出るのが、「パートにも健康診断を受けさせる義務があるのか」という点です。上記を踏まえると、契約期間が無期もしくは1年以上で、正社員の4分の3以上の労働時間なら、法律上の義務があると考えておきましょう。

なお、派遣従業員は、派遣元の企業に実施義務があります。また、代表取締役のような事業主・従業員の配偶者や家族なども、実施義務の対象外です。


企業に実施義務のある健康診断は5種類

企業に実施義務のある健康診断は、次の5種類です。
・雇用開始時の健康診断
・定期健康診断
・特定業務従事者の健康診断
・海外派遣労働者の健康診断
・給食従業員の検便

実施漏れが無いように、それぞれ、対象となる従業員や実施すべき時期などを把握しておきましょう。

【健康診断の種類①】雇用開始時の健康診断

雇用開始時の健康診断とは、労働安全衛生規則第43条で定められ、常時使用する労働者を雇い入れるときに行うことが義務付けられた健康診断です。
名前のとおり、対象者は新たに雇い入れる常時使用する労働者で、実施時期は雇入れのタイミングとなっています。

常時使用する労働者とは、先ほどお伝えしたとおり、以下の2つの要件をどちらも満たすすべての従業員です。
・契約期間が無期もしくは1年以上
・1週間の労働時間数がその職場で同種の業務に従事する一般的な労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上である

労働安全衛生規則で定められる実施項目は、次のとおり11項目あります。
・既往歴及び業務歴
・自覚症状及び他覚症状の有無
・身長、体重、腹囲、視力及び聴力
・胸部エックス線
・血圧
・血色素量及び赤血球数(貧血検査)
・肝機能検査(GOT・GPT・γ―GTP)
・血中脂質検査(LDLコレステロール・HDLコレステロール・血清トリグリセライド)
・血糖検査
・尿検査(尿中の糖及びたんぱくの有無)
・心電図

【健康診断の種類②】定期健康診断

定期健康診断は、労働安全衛生規則第44条で実施が義務付けられている健康診断です。実施義務の対象者は、特定業務従事者を除くすべての常時使用する労働者で、1年以内ごとに1回実施する必要があります。
法律で必要とされる検査項目は、雇用開始時の健康診断と同様の11項目です。

なお、常時50人以上の従業員を雇用する企業では、「定期健康診断結果報告書」を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。記載事項は、労働保険番号や在籍・受診労働者数、健康診断項目、所見のあった者の人数や医師の指示人数などです。

報告書の様式は厚生労働省のホームページから入手することができます。

【健康診断の種類③】特定業務従事者の健康診断

特定業務従事者とは、労働安全規則第13条第1項第2号に掲げる業務に携わる従業員で、以下のような業務が該当します。

【労働安全規則第13条第1項第2号で規定される特定業務の一例】

以上のような業務に常時従事する従業員には、特定業務への配置替えの際と6月以内ごとに1回のタイミングで、特定業務従事者の健康診断を受けさせる義務があります。

【健康診断の種類④】海外派遣労働者の健康診断

海外派遣労働者の健康診断は、海外に6ヶ月以上派遣する従業員に対して行う義務のある健康診断です。海外に派遣するタイミングと、帰国して国内の業務に携わらせる際に、受診させる必要があります。なお、法的根拠は労働安全衛生規則第45条の2です。

海外派遣労働者の健康診断では、定期健康診断の項目に加えて、医師が必要と判断したときは以下の項目も対象になります。
・血中尿酸量
・胃部X線、腹部超音波
・B型肝炎ウイルス抗体検査
・出国前のABO式及びRh式の血液型検査 など

【健康診断の種類⑤】給食従業員の検便

給食従業員の検便は、労働安全衛生規則第47条で実施が義務付けられています。赤痢やサルモネラ・O157に感染していないかを検査します。
対象者は、「事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者」です。例えば、飲食店・食品工場や保育園・学校給食センターなどが該当します。
実施のタイミングは、雇入れたときや該当する業務に配置替えになったときです。

健康診断の実施業務

健康診断を実施するにあたって、どのような業務が発生するのでしょうか。ここでは、雇用開始時の健康診断や定期健康診断を医療機関で行う場合の基本的な流れと、健康診断の実施後に発生する代表的な業務を解説しますので、大枠をつかんでおきましょう。

健康診断実施の基本的な流れ

雇用開始時の健康診断や定期健康診断を医療機関で行う場合の基本的な流れは、次のとおりです。
①健康診断の対象者をリストアップする
②健康診断を実施できる医療機関で予約を取る
③健康診断の対象者に健康診断の実施日をメールや書面などで通知する
④健康診断を実施した医療機関から診断結果を受理する
⑤健康診断の受診者に診断結果を個別に通知する
⑥診断結果を健康診断個人票に入力し、5年間保存する

総務・人事は、上記加えて、予算の見積もりを取って検討したり、補助金申請を行ったり、健康診断の項目に誤りが無いか確認したりする業務にも対応する必要があります。

健康診断実施後に必要な対応

健康診断の実施後に対応すべき業務で、代表的なものは次の3つです。
①健康診断の結果通知
②診断結果について医師の所見を確認する
③健康診断結果を保管する

「①健康診断の結果通知」は、もちろん受診した本人にも行いますが、場合によっては以下の報告・通知も発生します。
・常時50人以上の従業員を雇用するなら、労働基準監督署へ「定期健康診断結果報告書」を提出
・人事労務部門の担当者や衛生管理者など、就業上の措置を実施するために必要最小限の範囲の関係者が、結果の提供を希望する場合

「②診断結果について医師の所見を確認する」は、結果の悪い社員がいた場合に必要な対応です。受診日から3ヶ月以内に、産業医に、通常勤務が可能かどうか所見を確認しましょう。通常勤務が可能な場合も、該当する従業員には保健指導を受けさせる必要があります。

「③健康診断結果を保管する」については、注意点が多いので、次項で改めて説明します。

健康診断結果の管理方法

企業には、健康診断個人票を作成して健康診断結果を保管する義務があります(労働安全衛生規則第51条)。

健康診断結果を保管する際は、次の2点に注意しましょう。
・法定外の検査項目の保管時は、従業員の同意を得る
・定期健康診断の結果は5年間保存する

二次検査を行った際は、結果の保管義務はありませんが、健康状態を正しく把握するという趣旨から、あわせて保管することをおすすめします。
なお保管の形態は、データでも書面でもどちらでも構いません。

健康診断を行うときの注意点

健康診断の実施業務を行う際に特に注意すべきなのが、要配慮個人情報の取り扱いと健康診断の受診を拒否する従業員への対応です。それぞれ、どういうところに注意が必要なのか、把握しておきましょう。

要配慮個人情報に注意する

要配慮個人情報は、平成29年の個人情報保護法改正で新設されたもので、信条や病歴、犯罪歴や犯罪被害の事実などが該当します。要配慮個人情報に該当すると情報の取得時に本人の同意が必要になるなど、取り扱いルールが厳格化します。
健康管理関連では、次のような情報が要配慮個人情報です。

【健康管理関連の要配慮個人情報の例】

基本的に、従業員の健康管理に関する情報は、要配慮個人情報に含まれます。ただし、法令に基づいて実施する場合、本人の同意を得ずに要配慮個人情報の取得が可能です。
健康診断についても、労働安全衛生法や同規則で義務付けられている範囲・項目に関しては本人の同意は不要ですが、それ以外の項目や検査結果を取得する際は、本人の同意を取りましょう。

拒否する従業員への対応

時折、健康診断の受診を拒否する従業員がいます。従業員にも受診義務はありますが、最初から受診を強制したり懲戒処分をしたりすると、トラブルに発展しかねません。次のように段階を追って対応しましょう。

①から③まで試してみても受診を拒否され解決策がないなら、懲戒処分などの検討をしていきましょう。
なお、大前提として、健康診断について就業規則に、健康診断を受診する義務や応じない場合の対応などについて定めておくことが重要です。

健康診断における産業医の役割

健康診断における産業医の役割は、主に次の3つです。
・健康診断結果のチェック
・就業上の措置
・保健指導

それぞれ、どのような内容か解説していきます。
なお、産業医の選任義務のない事業所では、産業保健総合支援センターの地域窓口を活用するとよいでしょう。

健康診断結果のチェック

健康診断結果の数値や前回からの推移などをチェックすることは、産業医の重要な役割です。健康診断は、受診したらそれで終わりではありません。
結果を踏まえて、悪化している部分はないか、今までどおりの働き方や生活で大丈夫なのかをチェックし、必要に応じて面談や指導を行うことで、従業員の健康の維持・増進がはかれるでしょう。

就業上の措置

健康診断の結果、異常が見つかった従業員に対する就業上の措置について、意見を表明することも産業医の役割です。
健康診断の結果が悪かった従業員について、これまでどおり通常業務を続けてよいのか、休業すべきか、休業しないまでも労働時間の短縮や業務内容を変更すべきかなどの措置内容について、産業医に意見を確認しましょう。

保健指導

これまでどおり通常業務を続けてよいとの判断になったものの、健康診断の結果に問題があった従業員に対して保健指導をするのも産業医の役割です。
本人の意向や生活習慣・勤務環境を踏まえた保健指導を継続して行うことで、体調の改善や疾病の予防・再発防止などの効果が見込めます。

総務・人事が行う業務のまとめ

最後に、健康診断に関連して総務・人事が行う主な業務をまとめてご紹介します。

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法律で企業に実施が義務付けられている健康診断は、処理業務が多く、医療機関・従業員・産業医など調整相手も多いため、業務が煩雑になりがちです。また、要配慮個人情報や従業員による受診拒否など、トラブルの原因にも事欠かないのが実情です。

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