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人事評価制度を構築する上での注意点とは?

記事作成日2021/02/05 最終更新日2022/06/28

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人事評価制度は自社の経営理念や中期計画を達成させるために「理想の人材」を育てるためのものでなければなりません。今回は人事制度とは何か、評価制度を構築するうえで気をつけるべきことについて解説します。

人事評価制度とは何か?

「明瞭かつ正しく機能する人事評価制度が構築できている」と自信を持って答えられる中小企業はどれだけ存在するのでしょうか。さまざまなお客様とお話をしていると、社長の一存で給与体系、人事制度がコロコロ変わる、昇給・昇進理由が不明瞭など、社員の評価がブラックボックス化しているケースが多いようです。この状態では、社員は何をすれば認められるのか、給与が上がるのかがわからなくなってしまいます。

本来、人事制度とは、経営理念や中期計画を達成するために、採用・賃金、賞与の査定・昇格・昇進の基準を作り、日々の業務遂行の効率化を図るシステムです。
人事制度は「評価制度」「賃金制度」「等級制度」の3つから成り立っています。
それぞれの制度の基準が「見える化」されることで、会社が成長するためにどんな能力が必要なのか、どんな人材育成をしなければならないのかが明確になります。被評価者はどんな業務に注力すれば良いのか、労力を費やすベクトルが明瞭になります。評価者は一定のルールで評価ができるため、人によって評価が大きく異なるというリスクを回避できます。また、評価制度の基準をクリアできる人材は、経営理念の実現に必要な人材です。そのため、人事評価制度は日々の業務指導ツールとして利用することもできます。

人事評価制度の目的とは? 評価者が念頭におくべきことは?

人事評価制度には主に2つの目的があります。
一つは査定の基準を明確にすることです。
社員一人ひとりの業績や能力の評価が、上長の主観や好みによって変化してしまうことを防ぐためです。
実際の「職務行動事実」に基づく評価は、社員へ評価結果を伝える際の説明に説得力を加えることができます。

もう一つは育成・指導ポイントの明確化です。
評価制度は社員の得意分野と苦手分野を明らかにします。これにより、効率的な育成指導が可能になり、社員のモチベーションの維持・向上にもつなげることができます。また、一定期間指導を続けても短所が改善されない場合、長所を生かせる現場に異動させるという選択も可能になります。

これらの目的を達成するために、評価を下す側が原則として頭に入れておかねばならない3大原則があります。

原則1.「人」ではなく「仕事」を評価する
大前提として理解すべきは部下の「仕事」を評価するということです。
社員は「人」ですが、その性格や信条、上司との相性、人生観といった気質に関わるものを評価に入れてはいけません。もちろん、性別や学歴、勤続年数も評価の対象外です。業務を遂行する上での行動と結果のみで判断をします。例えば、性格は評価には入れてはいけないと述べましたが、顧客の懐に取り入るのが巧みな性格によって営業成績が上がれば、その「売上」は評価に値します。

原則2.勤務時間内の「仕事」を評価する
勤務が終わると上司と一緒によく飲みに行く、といったような仲の良さが評価になるようなことは絶対にあってはいけません。評価する側も人ですから、好き嫌いは当然あるでしょうが、その感情を律することができない人材は、評価者には向いていません。

原則3.定められた評価期間だけの「仕事」を評価する
数年前に何億円もの契約を取った社内の生ける伝説、前職での実績が素晴らしいなど、過去の実績をもとに評価してはいけません。あくまで評価期間内にどれだけの仕事をしたか、業績を上げたかで評価します。

評価制度の種類は?

では、人事評価制度にはどんな方法があるのでしょうか?
いくつかの例をご紹介します。

その1.コンピテンシー評価
コンピテンス(competence)には、適正や能力といった意味があります。
コンピテンシー評価は、自社の中で高い業績を上げている有能な社員が持つ能力、行動特性を評価項目に加える手法です。1970年代にハーバード大学のマクレランド教授が提唱した概念で、高い業績を残す人材は、学歴や年齢とは関係なく、行動に共通した傾向が見られるというのです。メリットは自社にとっての有能な人材の定義づけがしやすいことです。デメリットは、基準が曖昧になりやすいことが挙げられます。

その2.目標管理制度(MBO)
目標管理制度とはManagement by Objectives(MBO)の略で、社員一人ひとりに目標を設定させる方法です。
経営学者のピーター・ドラッカーが提唱したことでも有名です。目標は立てるだけではなく、どうすれば期間内で達成可能かも検討し、そのプロセスを「見える化」した上で、会社の上司または人事担当者と共有します。この方法は、会社が社員と定期的にコミュニケーションをとり、進捗を確認することが大切です。目標管理制度のメリットは、誰かに強制された目標ではなく、自分で立てた目標のため、モチベーションを維持しやすいこと、能力を上げやすいことが挙げられます。デメリットは会社から目標を押し付けてしまうと、モチベーションが下がってしまう可能性があります。また、目標達成の可否ばかりに目が行くようになってしまう恐れもあります。

その3.360度評価
上司や人事担当者だけでなく、同僚や部下など社員と関わるすべての社員が評価をする方法です。
取引先の担当者にアンケートを実施することもあります。この方法のメリットとしては、「上司の前ではいい顔をしているが、上司がいないと仕事をサボりがち」といった強かな社員に対しても適正な評価が下せるようになります。多くの人から評価を得られるため、多角的な意見が得られるのもメリットです。デメリットは好き嫌いで人を判断してしまう、評価者としての適正にかける社員も評価者となってしまう点です。

ここで紹介したのはあくまで一例です。
評価制度は、他の会社でうまくいっているから自社でもいい結果が出るというものではありません。自社の文化や状況に合わせた方法を選びましょう。客観的な意見を聞いて的確な方法を選びたい場合はTOMAにご相談ください。

人事評価制度、運用の流れ

人事評価は主に1年の期間で運用されます。どのような流れで運用されるのでしょうか。それぞれのフェーズにおけるポイントもまとめて解説したいと思います。

フェーズ1.目標設定、役割責任の確認
まずは年度の初めに、会社全体の目標を明確にします。
例えば、会社全体の売上目標が決まると、それが各営業所に振り分けられ、個人の目標が決まります。会社の目標に対して、社員一人ひとりが何を目指していくのかを決めます。目標は押し付けにならないよう、上長が目標の草案を作り、各社員との面談によって目標を設定すると良いでしょう。「役割責任基準書」を作成している企業では、社員の現在地と期末にどこまでの達成を目指すのかといった点を上長とすり合わせておくことも大切です。「役割責任基準書」とは、能力や業務改善・工夫、企画・立案能力、問題解決力、折衝力など業務遂行における能力の基準を示したものです。

フェーズ2.期中におけるコミュニケーション
期中、直属の上司である一次評価者は、部下と積極的にコミュニケーションを図ることが大切です。
立てた目標に対しての進捗具合はもちろん、社員の感じていることや気づきなどもていねいにヒアリングしてください。
もし、コミュニケーションを疎かにしていると、期末の面談でネガティブなフィードバックをしなければならなくなった時、「上司は自分の頑張りを知らない」「どうせ、何も見ていなかったでしょ」という感情が社員に湧く可能性が高いからです。
普段の業務遂行において『上司が自分を見てくれている、話を聞いてくれる』という感覚は、とても重要であると認識しましょう。

フェーズ3.自己評価
期末になり、人事評価の実務が本格的に始まる際のファーストステップは自己評価です。
被評価者本人が期間内でどれだけの働きをしたかどうか、どれだけの結果を残したと認識しているかを確認します。

フェーズ4.一次評価
次は、直属の上司による一次評価です。
一番近くで業務遂行の様子を見てきたわけですから、社員のことを一番よく知っているはずです。

フェーズ5.二次評価
直属の上司による評価が終わったら次は部門をまとめる所属長が二次評価を行います。
一次評価者は社員にごく近い存在ですから、評価に主観が入ってしまう可能性があります。そこで、少し離れた立場から客観的に評価を下します。

フェーズ6.社長・役員による最終決定
社長、役員が現場社員を評価することはほぼできないでしょう。
ここでの役割は部門を横断した最終調整になります。例えば、広報部と営業部を比較した時、前者は評価が甘く、後者は厳しい結果となっていたとします。その際に、評価が本当に正しいかどうかを確認します。そのまま受け入れた際に不公平感が出ないかどうか、バランスをとることもこのフェーズの役割です。

フェーズ7.フィードバック準備
社員へ会社の評価をフィードバックするにはそれ相応の準備が必要です。
一次評価と二次評価、最終決定における評価が大きく異なる場合や、社員の性格なども考慮して伝え方を考えなければいけません。
・一番社員に近い一次評価者の評価は高いのに、二次評価、最終決定で評価が下がってしまった。
・一次、二次での評価に大きな差はなく、高評価であるが、全体のバランスを考慮して最終決定で評価が下がってしまった…etc
評価に対する論理的な理由を明確にしておかないと、被評価者は不満が募ります。
育成方針を正しく伝えるためにも工夫が必要です

フェーズ8.フィードバック面談の実施
面談は一次評価者である直属の上司が担当します。
面談では以下のポイントに注視します。
・評価結果を正しく伝える
・評価の受け止め方を確認する
・社員の主張を聞く
・来期への取り組みのポイント、方向性を明確にしてモチベーションを上げる
社員にとっても自分の給与が上がるか下がるか、昇格するかしないかが決まる大切な面談です。
そのため、次にフィードバック面談の注意点、流れを解説したいと思います。

評価制度の集大成。フィードバック面談での注意点

フィードバック面談は、1年間の人事評価制度の集大成ともいえる面談です。
うまくいけば社員の成長を促せるだけでなく、モチベーションが上がり来期のさらなる成長が期待できます。
では、フィードバック面談では何を重点的に話すべきなのでしょうか。

その1.会社の評価結果を理解させる
会社がどんな評価を下したのかを社員に伝えます。
その際に気をつけるべきは評価に至った経緯を、ていねいかつ論理的に伝え、社員に「理解」してもらうことが大切です。社員にとっては1年間の給与に影響する話、ある意味人生がかかっているわけですから、思い通りの結果でなかった場合は困惑するでしょう。面談の場で「腹落ち」させることはほぼ不可能ですから、面談では会社の方針を「理解」してもらうことを第一目的としましょう。

その2.賞賛すべきポイントと課題を明確にする
ただ課題を突きつけるだけの面談では、モチベーションは下がるだけです。
例え高評価ではなかった場合でも、1年間の頑張りを労うことを忘れないでください。また、課題は「成長の伸びしろ」と捉え、来期への目標となるよう前向きなフィードバック面談にしましょう。

フィードバック面談では、その流れも重要です。評価する側が話したいことだけを話して「おしまい」では社員は納得しませんし、次に繋がりません。

まずは本題に入る前に、軽い話題から入ってアイスブレイクを図りましょう。お互いの緊張がほぐれたと思ったら評価結果の伝達です。端的に、評価結果と主要な理由を説明します。ここは冗長にならないよう、短い時間で終わらせることがポイントです。

次に、社員から結果についての感想、認識を確認します。ここでは話を聞くことに徹底してください。話を聞いている途中で思うことがあっても話を遮ったり、反対意見を述べたりはしないこと。もう一点、注意して欲しいのは、「同調する必要」はないということです。評価者は話を聞きながら、その内容を理解するだけでなく、表情や仕草から、言葉には現れない感情を読み取ることに集中してください。

社員の話を一通り聴き終えたら、評価に関する項目の意見交換を行います。
「能力評価におけるスキル項目がなぜこんなに低いの?」
「業績評価において、あの案件はなぜ評価されていないの?」
「情意評価の積極性はどうすれば評価されるの?」
など、各項目の詳細について話し合います。社員が感情的になる可能性はありますが、評価者はあくまでクレバーに、会社の見解を説明することに徹してください。

最後に、来期へ向けて前向きな言葉・姿勢で面談を終えるようにしましょう。

評価者も研修が大切。陥りやすいエラーポイントは?

評価される社員に成長を促すのであれば、もちろん評価する側も指導できるレベルに成長しなければなりません。「口だけの上司についてくる部下はいない」ということを肝に銘じておきましょう。研修などによって身につけるべき知識・スキルは以下のようなものがあります。
・人事評価のルールに沿って普遍的かつ公平に評価する基礎知識
・経営理念の正しい理解
・「何を(課題)」「いつ(期限)」「どのように(達成水準)」という適切な目標の設定スキル
・社員の目標を達成に導くサポートスキル
・フィードバック面談で伝えることは伝え、社員を前向きにさせる面談スキル

評価者が集まって模擬面談を行ったり、事例を発表しあって解決策を出し合ったり、さまざまなアプローチがあります。知識・スキルの習得について自社に効果的なノウハウがない場合は、外部機関に委託するのも一つの方法です。

最後に、評価者が陥りやすい人事評価のエラー傾向を解説します。

エラー1.ハロー効果
突出した1つの特徴に他の評価が引っ張られてしまう。

エラー2.中心化傾向
評価に自信がない、自分の評価が目立つことを避けるために当たり障りのない評価をしてしまう。

エラー3.対比誤差
定められた評価基準ではなく、自分の基準で評価してしまう。

エラー4.論理的誤差
客観的な評価ができない。「ここが優れているからこの能力も高いはず」と勝手な憶測で判断してしまう。

エラー5.親近感誤差
出身や大学が同じだったり、共通の趣味があったり、評価者と被評価者の距離が近いことで評価が甘くなってしまう。

エラー6.寛大化・厳格化傾向
全体的に甘くなったり厳しくなったり、評価が極端に偏ってしまう。

これらの評価エラーは「こう言う傾向に陥りがち」と知っているだけで効果があります。定期的に確認するようにしましょう。

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