職場ではパワーハラスメントが発生しない、発生させないよう細心の注意を払わねばならないと頭ではわかっていても「パワハラの境界線がわからない」という人は多いと思います。
それもそのはず、厚生労働省からパワハラの定義は発表されているものの、法令上の明確な定義はないのが現状です。
だからと言って企業が何も対策をしないわけにはいきません。
今回はパワハラをしていないか、されていないかをチェックできるポイントを中心に解説いたします。
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まずは基本をおさらい。パワハラとは?
社会的立場が上の者による「嫌がらせ」は、1990年代前半から国際的に注目され始め、日本では2001年にパワーハラスメントという和製英語が作られました。労働施策総合推進法では職場における「パワーハラスメント」は、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境 が害されるものであり、①〜③まで全ての要素を満たすものと定義されています。
ただし、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しないものとされています。また、厚生労働省では以下の6つの類型を具体的なパワハラの例として挙げています。
その1.身体的な攻撃(暴行・傷害)
「書類を丸めてミスをした部下の頭を叩く」、「椅子や机を蹴飛ばし威嚇する」、職場上の立場や職権を利用した故意による体への直接的な殴打を指す。物に当たり威嚇する行為も身体的な攻撃にあたる。
その2.精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
「お前は中卒だからな」「そんな性格だから結婚できないんだ」など、人格を否定する言動。「必要以上の長時間にわたる厳しい叱責の繰り返す」「従業員一人を非難するメールを全社員に一斉送信する」
その3.人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
「特別ミスをしたわけでもない従業員を仕事のプロジェクトから外す」「一人の従業員を意図的に無視する」「業務上必要な連絡を特定の従業員だけにしない」
その4.過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
「経験の浅い従業員に、ベテランでも不可能なレベルのノルマを課す」「所定労働時間では決して終わらない量の業務を課す」上記の課題をこなせなかった場合、対象者を呼び出し激しく叱責する。
その5.過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
「気に入らない部下に対し、仕事をわざと与えない」「管理職に新卒が行うレベルの単純作業をあえて与え、退職を促す」
その6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
「他の従業員が患っている持病について、本人の了承なく他の労働者に暴露する」「休日にも自宅で業務をするよう強要する」「プライベートな行動を隠し撮り、他の労働者に暴露する」
もちろん、上記がパワハラの全てを表したものではありません。状況によって個別の事案が考えられますので、少しでも気になる場合は職場の人事部門や専門機関への相談をおすすめします。
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中小企業は2022年4月から強化された「パワハラ防止法」が施行
2019年5月に改正労働施策総合推進法、いわゆる「パワハラ防止法」が成立しました。大企業は2020年6月から、そして中小企業は2022年4月から事業主・労働者に対し、パワハラの発生防止に努めることが責務として法令上明確化されます。
では、具体的にどのような責務が課せられるのでしょうか。
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事業主の責務
①正社員、パート・アルバイトなど雇用形態にかかわらず、パワハラを行なってはならない。
②従業員がパワハラを行わないよう注意を払うことはもちろん、適切な研修を実施し、発生を未然に防がなければならない。
③万が一、パワハラが発生した際の対策窓口を設置する。
被害者の労働意欲の低下、健康状態の悪化をケアできる環境を整える。
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労働者の責務
①パワハラに対する知識・理解を深める。
②事業主が準備するパワハラに関するセミナーや研修に積極的に参加・協力する。
これら適切な措置を行わず、パワハラが発生した場合、事業主・労働者が罰せられることはありませんが、是正指導を受ける可能性があります。
立場別にみるパワハラチェックリスト
普段業務を行う中で何気ない行動や発言がパワハラとなっているかもしれません。
では、どんな行動がパワハラに通じるのでしょうか。
管理職(加害者)「自身の部下に対する行動はパワハラに当たるのか…」
部下(被害者)「上司から受けたあの仕打ちはパワハラかも…」
事業主(第三者)「今の職場環境にパワハラはあるのかな…」
など、それぞれの立場でパワハラへの視点は変わります。厚生労働省がチェックポイントを発表しているので、紹介したいと思います。
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管理職(加害者)のチェックポイント
パワハラの加害者になるのは会社の上司である場合がほとんどです。加害者は部下に対する「教育の一環」という意識が強く、是正を求めても改善しようとしない傾向があります。 これには事業主が確固たる意志を持って厳正に対処する旨を伝えなければなりません。
以下のチェックポイントにあてはまる項目が多い場合は特に注意が必要です。
□部下からの意見は業務に関することであってもイライラする
□たとえ自分がミスをしても部下に謝ることは絶対にない
□個人的な感情が仕事に影響しやすい
□厳しい指導こそ人を育てると思っている
□部下から仕事に関する相談をされることがない
□部下を好き嫌いで判断している(嫌いな部下がいる)
□仕事ができないと判断した部下には仕事を与えない
□業績のためなら部下が残業するのは当たり前である
□大声で部下を叱ることは日常茶飯事
□自分がオフィスに入ると急に静かになる
□部下のプライベートを把握するのは管理職の仕事だと思う
□学校などで体罰をする指導者の気持ちを理解できる
□気に入らない人とは口をきかない(無視する)方が良いと思っている
3つ以上の項目にチェックが入る管理職には厳重な注意を促す、もしくはセミナー・研修の受講をすすめると良いでしょう。
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部下(被害者)のチェックポイント
パワハラを放置していると、加害者側の行動はエスカレートする傾向があります。パワハラによって体調を崩し、働けなくなるような事態になってからでは遅いため、ストレスが限界を超える前に、早めに行動を起こしましょう。
□叱られている最中に物で頭を小突かれることがある
□怒鳴りと同時に物を投げたり、蹴ったりされる
□仕事のミスを多数の同僚の前で叱責される
□「バカ」「クズ」といった言葉で叱られる
□「クビにするぞ」と脅される
□話しかけても無視される
□仕事上必要な連絡や指示が来ないことがある
□自分だけ飲み会に誘われないことがある
□異常なノルマを課され、達成できなかった際にはひどい叱責を受ける
□終業間際に業務を押し付けられる
□未経験にもかかわらず重大な業務を丸投げされ、ミスがあればひどい叱責を受ける
□「一日中オフィスの掃除」など、能力や経験と関係ない業務のみを与えられる
□プライベートに関する報告を強要される
□交際相手の有無、結婚を促される
□個人の信仰する宗教を公表されたり批判されたりする
□休日や夜間に緊急度の低い仕事の連絡がくる
これらが全てパワハラと断言できるわけではありませんが、その可能性が高い項目です。チェックが入った場合は早い段階で相談をするようにしましょう。
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事業主(第三者)のチェックポイント
事業主は全従業員の日常の言動や行動までは把握できないでしょう。また、職場の雰囲気に異常を感じている人もいるはずです。自分に被害はなくても構いません。気になることがあれば、適切な部署に相談を持ちかけると良いでしょう。
□職場で挨拶が交わされることがない。挨拶をしても無視される
□職場にパワハラはないと断言する上司が多い
□厳しい指導が当たり前の職場である
□ミスや失敗が許されない雰囲気の職場である
□ノルマが厳しいだけでなく、未達の場合は大きなペナルティがある
□上司に意見できる雰囲気はない
□職場で困っている人がいても助けられない雰囲気がある
□職場環境を改善したくても、できる雰囲気がない
□正社員、パート、派遣社員の間に上下関係がある
□人の悪口・陰口が日常茶飯事の職場である
上記の項目に多く当てはまる職場では、現状パワハラが発生していなくても今後発生する可能性が高いと考えられます。未然の対策を徹底する必要があるでしょう。
明るい職場づくりには一人ひとりの心がけが大切
いかがでしたか。日本は古来より閉鎖的な環境で働くケースが多く、パワハラが発生しやすいと言われています。
しかし、時代は変わりました。現在は終身雇用が当たり前の時代ではありません。パワハラ・セクハラの横行する職場環境を放っておけば、優秀な人材が流出するだけでなく、労働力人口の減少により、新たな労働者の獲得も難しくなります。
TOMAコンサルタンツグループでは、「パワハラ防止法」に対する対策はもちろん、職場環境の調査から改善までをサポートさせていただいております。
「最近、職場の雰囲気が良くない…」など何気ない相談でも構いません。初回相談は無料ですのでお気軽にお問い合わせください。