医療の分野にもDXの波が押し寄せていますが、国として医療現場でのDXを推進する目的で令和6年度の診療報酬改定において医療DX推進体制整備加算が新設されました。
マイナ保険証利用により得られる薬剤情報等を診察室等でも活用できる体制を整備するとともに、電子処方箋及び電子カルテ情報共有サービスの整備、マイナ保険証の利用率を要件とし、医療DXを推進する体制を評価するための加算です。
現状、届出をしていない先生もいらっしゃるかと思います。このブログでは、医療DX推進体制整備加算の10月の変更点と、今後についてもご紹介しますので、ぜひご参考にしてください。
目次
医療DX推進体制整備加算導入の背景
医療DXとは、医療分野でのデジタル・トランスフォーメーションを通じて、サービスの効率化や質の向上を図り、国民自身の予防促進や、より質の高い医療提供やケアを受けられるよう、社会や生活の形を変えることです。
超高齢社会に直面する中で、健康寿命の延伸や持続可能な社会保障制度が必要不可欠であり、医療DXの実現が求められています。
医療DXの実現に向けて、「医療DXの推進に関する工程表」に基づき、全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテの標準化、診療報酬改定DXの3つの柱で取り組みが進められています。医療DX推進体制整備加算はその柱の1つとして、新設されました。
この加算は、令和6年10月より加算点数や基準が見直されましたが、今度も要件の見直しは行われます。次に、その見直しの内容について詳しくみていきます。
制度見直しについて
要件見直しのポイント
医療DX推進体制整備加算は、令和6年10月より加算点数や基準が見直されました。加算点数については、これまで1種類だった加算点数が、マイナ保険証利用率に応じて、3段階の点数に見直しされました。
高い利用率の要件を満たすことができれば、加算される点数も利用率に応じて高くなります。また、3段階のうち、加算点数の高い加算1、加算2については、マイナポータルの医療情報等に基づき、患者からの健康管理に係る相談に応じることが施設基準に要件化されました。
【 施設基準(医科医療機関)】
(1)オンライン請求を行っていること
(2)オンライン資格確認を行う体制を有していること
(3)
(医科)医師が、電子資格確認を利用して取得した診療情報を、診療を行う診察室、手術室又は処置室等において、閲覧又は活用できる体制を有していること
(歯科)歯科医師が、電子資格確認を利用して取得した診療情報を、診療を行う診察室、手術室又は処置室等において、閲覧又は活用できる体制を有していること
(調剤)保険薬剤師が、電子資格確認の仕組みを利用して取得した診療情報を閲覧又は活用し、調剤できる体制を有していること
(4)
(医科・歯科)電子処方箋を発行する体制を有していること(経過措置 令和7年3月31日まで)
(調剤)電磁的記録をもって作成された処方箋を受け付ける体制を有していること(経過措置 令和7年3月31日まで)
(5)電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制を有していること(経過措置 令和7年9月30日まで)
(6)マイナンバーカードの健康保険証利用の使用について、実績を一定程度有していること(令和6年10月1日から適用)
(7)医療DX推進の体制に関する事項及び質の高い診療を実施するための十分な情報を取得し、及び活用して診療を行うことについて、当該保険医療機関の見やすい場所及びウェブサイト等に掲示していること
(8)(調剤)電磁的記録による調剤録及び薬剤服用歴の管理の体制を有していること
ポイントとなる見直し2点
ポイント① 加算の点数 3種類に見直し
1つ目の見直しポイントは、これまで1種類だった加算点数が、以下の3種類になったことです。
・医療DX推進体制整備加算1 これまでの点数+3点 医科11点 歯科9点 調剤7点
・医療DX推進体制整備加算2 これまでの点数+2点 医科10点 歯科8点 調剤6点
・医療DX推進体制整備加算3 これまでの点数と変更なし 医科8点 歯科6点 調剤4点
マイナ保険証利用率に応じて、3種類の加算の点数が設定されました。そのため、高い利用率の要件を満たすことができれば、加算される点数も高くなります。加算ごとに必要なマイナ保険証利用率実績は、以下のようになっています。
12月までは、最も低いマイナ保険証利用率は5%です。そのため、12月までは、自院のマイナ保険証利用率が、加算される要件の中で、一番低い利用率である、5%以上であるかどうかを確認することで、加算できるかどうか確認できます。
1月からは実績要件が見直され、12月までの倍の利用率が要件となります。そのため、最も低いマイナ保険証利用率は10%です。
4月以降のマイナ保険証の実績要件については、令和6年の年末を目処に検討、設定されることになっていますので、今後も加算できるのか、年末にはそちらも確認しましょう。 また、具体的にマイナ保険証利用率をどのように確認するかなど、詳細についてはまた後ほど確認します。
ポイント② 施設基準の見直し
加算1と加算2の施設基準には、「マイナポータルの医療情報等に基づき、患者からの健康管理に係る相談に応じること」が要件化されました。今回の見直しで、必要な実績要件が一番低い加算3については、要件化されていません。
ここまで、医療DX推進体制整備加算の見直しのポイント2点を確認しました。特に、利用率によって、加算点数が変わってくることは大きな変化かと思います。
次はマイナ保険証の利用率について、詳しく確認します。
マイナ保険証利用率の確認方法
マイナ保険証の利用率は、以下の2つを用いることができます。
・レセプト件数ベース利用率
・オンライン資格確認件数ベース利用率 (令和6年10月~令和7年1月のみ)
医療DX推進体制整備加算の算定に用いるマイナ保険証の利用率(レセプト件数ベース利用率・オンライン資格確認件数ベース利用率)は、医療機関等向け総合ポータルサイトのマイページにて確認ができます。算定に用いる、利用率の最高値が表示されていますので、ご確認ください。
また、それぞれの利用率には、以下のような特徴があります。
レセプト件数ベース利用率
この利用率は、「マイナ保険証の利用者数の合計 ÷ レセプト枚数」で計算されます。
オンライン資格確認件数ベース利用率
この利用率は、「マイナ保険証の利用件数 ÷ オンライン資格確認等システムの利用件数」で計算されます。また、オンライン資格確認件数ベース利用率は、令和6年10月~令和7年1月の間に限り、用いることが可能ですのでご注意ください。
どの利用率実績を用いることができるのか
利用率実績は、レセプト件数ベースマイナ保険証利用率と、オンライン資格確認件数ベースマイナ保険証利用率ともに、その時点で算出されている過去3か月間で最も高い率を用いて算定が可能です。
原則的には、レセプト件数ベースマイナ保険証利用率を用いますが、令和6年10月~令和7年1月は、オンライン資格確認件数ベースマイナ保険証利用率を用いることもできます。
(令和6年10月~令和7年1月)
適用時期の3月前のレセプト件数ベースマイナ保険証利用率
適用時期2月前のオンライン資格確認件数ベースマイナ保険証利用率
(令和7年2月~)
適用時期の3月前のレセプト件数ベースマイナ保険証利用率
続いて届出についても確認します。
届出
届出に関しては、以下の2つのポイントがあります。
・すでに医療DX推進体制整備加算の届出を行っている場合は届出直しが不要
⇒毎月社会保険診療報酬支払基金から報告されるマイナ保険証利用率が基準を満たしていれば問題ない。
・マイナ保険証利用率の施設基準は届出不要
届出を出していても、マイナ保険証利用率が基準を下回ると、算定できない。
加算するための基準は今後も見直しされる予定です。今後の基準なども確認しながら、貴院のマイナ保険証の利用状況と基準を比べていただき、マイナ保険証利用率が基準を上回りそうな場合には、届出を提出いただくのが良いかと思います。
マイナ保険証利用率現在の状況
ここまで、加算の詳細について確認しましたが、ここからは利用状況について確認します。
マイナ保険証利用率の状況
(令和6年1月時点)4.6%
(令和6年9月時点)13.87%
出典:厚生労働省 オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)
1月時点では、高い利用率ではありませんが、9月には1月の約3倍の利用率になっています。今後、既存の健康保険証の新規発行がなくなるなどの予定もあることから、全国的にも利用率は増加を続けることが予想されます。
■マイナ保険証利用経験者が今後も利用したいと思っている割合(令和6年8月時点)
マイナ保険証利用経験者のうち、今後も利用したい(あてはまる・ややあてはまるを選択した)人は、74.9%に上り、利用経験のある人の方が今後も使用したいと感じていることがわかります。
今後について
最後に、医療DX推進体制整備加算の今後についてご紹介します。
これまで説明してきたように、加算に必要なマイナ保険証の利用率実績は今後変更される予定です。それに加えて、今後の重要な変更点として、電子処方箋の導入が加算の要件として求められることになります。
令和7年3月末まで、電子処方箋を導入していなくても加算の要件を満たすことができるのは、経過措置が設けられているためですが、令和7年4月以降はこの経過措置が終了しますのでご注意ください。
まとめ
ここまで医療DX推進体制整備加算について確認してきましたが、いかがでしたでしょうか。加算の要件は今後も変更される可能性がありますので、注意が必要です。貴院のマイナ保険証利用率や、電子処方箋等の状況を定期的に確認してください。すでに届出をしている場合でも、今後も加算が可能かどうかを確認しましょう。
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