前回の案件(その3をご参照ください)に関連する事項について説明します。社内調査委員会による調査報告書の公表後、役員の関与等の追加調査が必要と判断され、第三者委員会が設置されました。また、会計監査人から第三者委員会の調査が完了しないと四半期レビュー報告書の結論は出せないと指摘されました。今般、第三者委員会の調査報告書が公表(2018年5月23日)され、社内調査委員会の調査結果が追認されることとなり、会社からいろいろな情報が提供されています。
今回は、会計不正の内容説明ではなく、第三者委員会の調査報告書の概要を含め、不正が発覚し調査報告書が公表された後の対応等を説明する回としたいと思います。
事例の紹介(不正の手口と社内調査後の流れ)
- ・2018年3月14日に上場会社の連結子会社で発生した架空取引被害の現況を報告された事例のその後。架空取引の手口は、(1)発注書等の偽造、(2)売掛金の振込時のクライアントなりすまし、(3)監査法人がクライアントに直接送付する残高確認状を送付先から回収し回答等の偽装(偽造印を使用)を実施(以上の記載は前回と同様)
- 社内調査委員会の調査では、会社役員の関与(当該架空取引の認識があったかどうか)の可能性等、不十分と考えられる点があるとして第三者委員会を設置し調査を継続。第三者委員会は、2018年5月23日に調査報告書を公表
- 第三者委員会の調査報告として、社内調査委員会の調査結果報告に追加すべき新たな不正や事実の確認はないとの結果を公表。この結果を踏まえて、2018年5月30日に2018年3月期の決算を公表(決算短信を開示)。2018年3月期の有価証券報告書については、2018年7月20日まで提出期限を延長(公表数値を訂正し、2018年7月20日に最終公表)
第三者委員会の調査報告の概要
- 調査目的
(1)子会社の架空取引について当社の役員が認識していた可能性の検討
(2)類似する取引等の有無の検討
(3)その他、第三者委員会が必要と認める調査の実施 - 調査概要
(1)社内調査委員会の検証
(2)当社役員の本件架空取引についての認識の有無
役員の認識の可能性の検討が、第三者委員会の調査を求めた大きな要素であったため、可能性のある役員数名を選定して複数の角度から検討し、関与の可能性を排除する方法を実施。また、選定された役員については、デジタルフォレンジックス調査(注1)も実施
(3)類似取引の有無を検討するために件外調査(本件外調査)(注2)を実施
アンケートの実施及び臨時内部通報窓口(ホットライン)を設置し情報を収集。また、類似案件を把握する観点から、別グループの関連取引を検討
(4)長期間にわたり架空取引がなぜ発覚しなかったのかとの観点から、内部監査、監査役監査、会計監査人監査の状況についても検討
(注1)不正アクセスなどコンピュータに関する犯罪に対してデータの法的な証拠性を確保できるように,原因究明に必要なデータの保全,収集,分析をすること
(注2)企業不祥事の発生が疑われるところに対して行われるのが本件調査。その結果、不正が判明した場合に、「他の部署でも同じことはないか」「別の商品にも同じような不正が行われていないか」との仮説を立てて行う調査のこと - 役員の関与は認められず、発覚した取引以外に類似するような取引はなかったと結論づけ。また、内部監査、監査役監査、会計監査人監査それぞれについて、必要な対応は行われていたとの判断を明示
当初正常な取引を行っていた取引先が架空取引を始めた事例で、不正に気づく端緒はあったが、架空取引など行うはずがないだろうという認識から10年近くの長期に亘り不正が行われ、企業価値が大きく毀損
監査のその後の対応
今回のケースでは、過年度に遡って訂正報告書を提出。2018年6月12日公表の過年度有価証券報告書等の訂正報告書の監査に関するお知らせでは、2016年3月期第1四半期からの訂正報告書については現任の監査法人が対応し、2015年3月期以前の訂正報告書については当該期間の監査を担当していた前任の監査法人が担当する旨を報告
2018年5月11日のお知らせでは、2015年3月期以前の訂正報告書については複数の監査法人に打診していると記載されており、紆余曲折を想像。監査法人に相当の協力をお願いするには、社内調査委員会の対応だけでは足りず第三者委員会の調査が入らないと困難と感じられるところ
会社側からの要請により、2018年3月期の有価証券報告書の提出期限は、2018年7月20日まで延長を実施。第三者委員会の調査報告を経て訂正監査を実施し、2018年7月20日に有価証券報告書を提出
最後に
原因分析された内容を見ていると、あたりまえと考えられることができていなかったようです。なぜこんなことをしているのだろう(しないのだろう)という素朴な疑問、なぜ同じようなエラーが続くのだろうという疑問、日ごろから疑問をもって業務に当たることが大切と考えられる事例であったと思います。原因分析された内容を見ていると、あたりまえと考えられることができていなかったようです。なぜこんなことをしているのだろう(しないのだろう)という素朴な疑問、なぜ同じようなエラーが続くのだろうという疑問、日ごろから疑問をもって業務に当たることが大切と考えられる事例であったと思います。第三者委員会の調査結果報告書の原因分析を読んでいると、他の事例の場合と同じようなことが記載されているように感じます。自分のところは大丈夫と考えるのではなく、日ごろから疑問に感じるようなことがないかを考えることが重要だと思います。シンプルに考えられてはいかがでしょうか。
このブログでは事例の紹介だけでなく、関連情報を知る機会を提供するという点からも情報発信し、共有できればと考えております。
参考:日本取引所自主規制法人が策定・公表している上場会社の不祥事対応に係るプリンシプルの紹介
日本取引所自主規制法人から「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」(2016年2月24日)及び「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」(2018年3月30日)が公表されています。プリンシプルとして掲げられている項目(原則)を記載しますので、内容等はインターネット等で確認いただけますと幸いです。
○ 上場会社における不祥事対応のプリンシプル~確かな企業価値の再生のために~
(1) 不祥事の根本的な原因の解明 (2) 第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保 (3) 実効性の高い再発防止策の策定と迅速な実行 (4) 迅速かつ的確な情報開示
○ 上場会社における不祥事予防のプリンシプル~企業価値の毀損を防ぐために~
原則1 実を伴った実態把握 原則2 使命感に裏付けられた職責の全う
原則3 双方向のコミュニケーション 原則4 不正の芽の察知と機敏な対処
原則5 グループ全体を貫く経営管理 原則6 サプライチェーンを展望した責任感
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