負債を抱える会社では、事業承継を決断するべきか迷ってしまいがちなのではないでしょうか。さらなる経営難に陥ってしまうと、後継者の財産まで失うことになりかねません。それでは、借金があるからといって事業承継を諦めてしまってよいのでしょうか?負債の多い会社でも事業承継はできるのか、そんな疑問をこちらで解決します。
■基本的にはおすすめできない
準備をせずに会社を引き継がせると、後継者にそのまま借金を押し付けるかたちになります。まずは、負債のある会社が事業承継に向かない理由を詳しくみていきましょう。
◇負債を引き継ぐことになる
会社の借金を返済できないと、土地や自宅などの資産保有が危ぶまれます。最悪の場合、自己破産を視野に入れなければなりません。たとえ親族の事業承継といえども、後継者は現経営者の借入金を肩代わりするイメージとなります。
◇連帯保証も引き継ぐことになる
後継者は会社の借金を背負うばかりではなく、銀行から負債の連帯保証まで求められます。さらに銀行からの借入金については、連帯保証人の変更ではなく「追加」となるため注意してください。後継者に資産があれば別ですが、事業承継時に現経営者の個人保証は解除されないまま、後継者も連帯保証を引き継がなければなりません。
負債というリスクがあるなかで、新たなリスクを抱えるのは避けたいところです。それでも事業承継を行う場合には、返済に向けた以下の3点をきちんと説明できるようにしましょう。
・どのくらいの利益を出せるのか
・1年間にいくら返せるのか
・完済は何年後になるのか
分割払いで完済できなければ、弁護士を雇って破産を視野に入れることになります。
■分社化して引き継がせる方法も
分社化を行えば、新しい会社だけに返済義務が生じます。なぜならば、前の会社には返済能力がないと判断されるからです。
負債のある会社が事業承継を行うのであれば、この仕組みを利用して財務状況を整理したほうがよいでしょう。つまり、会社全体の中から「利益になる部分だけ」を別会社に移して、借金返済の負担を軽減させてください。
例えば負債が6,000万円残っており、資産4,000万円の会社があると仮定します。別会社に資産4,000万円と負債4,000万円を移せば、負債が0円となります。後継者が株を1円でも購入することで、経済的合理性が成り立つでしょう。負債6,000万円をそのまま引き継ぐよりも、このような手順を踏んだほうがおすすめです。
ちなみに親族の事業承継であっても、子どもは第三者の扱いとなります。また、別会社に持ち出すものは任意で設計できます。不採算事業や負債を意識して、本当に必要なものだけを分社化しましょう。
■事業を承継する際には資産と負債を明らかに
事業承継では、現経営者と後継者の間で「資産」と「負債」をきちんと把握しておくことが大切です。特に中小企業では、個人資産と会社の資産が区別されていないケースが目立ちます。そのため現経営者は、事業承継を行った場合に、どこまでが個人資産なのかを明確にしましょう。
また、血縁関係のない従業員を後継者に選ぶ際にも注意してください。現経営者個人の負債を、会社の負債として親族外の後継者に委ねるとトラブルに発展します。税理士や公認会計士に相談するなど、十分な配慮を心がけましょう。
■まとめ
売掛金や在庫品、固定資産などの運転資金であれば、借入金があっても問題ありません。ただ、負債が1年の利益の10倍を超えてしまうと、債権者は貸し倒れを警戒します。「会社の借金は、年商の半分まで」といわれるほど、負債の抱え過ぎには気をつけたいところ。負債の多い会社を後継者にそのまま引き継がせると、事業承継を行っても経営回復に至りません。
後継者も連帯保証の責任や返済計画に頭を悩ませてばかりでは、経営に支障をきたしてしまいます。上手に立ち回るためにも、分社化などを利用してみましょう。