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繰越欠損金のある会社を事業承継する際の注意点

記事作成日2020/01/31 最終更新日2021/01/22

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繰越欠損金のある会社を「買収」という形で事業承継する際、ケースによっては節税できるメリットがあります。しかし、場合によっては節税できないこともあるので注意が必要です。

今回は、繰越欠損金の定義から事業承継における注意点まで、具体的にご紹介していきます。

 ■繰越欠損金とは赤字部分のこと

 繰越欠損金とは、その年の利益より大きい損失部分、つまり赤字のことです。繰越欠損金はその年の利益と相殺することができ、それでも余る場合は次の年に繰越すことができます。相殺すると利益が減るため、減った分の利益に対する法人税がかからなくなります。つまり、繰越欠損金をうまく活用すると、利益が減り、その分法人税の節税につながるのです。

「赤字は悪いこと」として繰越欠損金が出ることを避ける経営者の方もいますが、活用次第では効果的な節税対策になるということです。

なお、繰越欠損金を積極的に活用する(赤字化する)ためには、

・不良債権の処理(債権額の切り捨て、貸し倒れの処理等)

・不採算店舗の撤退(店舗・工場の閉鎖・撤退処分等)

・含み損の実現(遊休資産、塩漬け状態の上場株式、不要な備品の処理等)

等、損するとわかっていても処理しきれていない部分を清算すると、財務体質の改善にもつながり望ましいといえます。

■繰越欠損金活用のメリットは、法人税を節税できること

 繰越欠損金活用のメリットは、法人税を節税できることです。具体的な例で見ていきましょう。

なお、ここでは法人税率を30%と仮定します。

まず、500万円の利益を出した会社があったとします。

この場合、法人税はその利益の30%となるので、

500万円×30%=150万円

となります。

しかし、繰越欠損金が300万円あった場合、相殺してこの会社の利益は

500万円-300万円=200万円

となるため、かかる法人税は

200万円×30%=60万円

となります。

この場合、繰越欠損金で利益を減らしたおかげで

150万円-60万円=90万円

の節税ができたことになります。

なお、繰越欠損金が利益より大きければ、発生した年から最大9年間(※)繰越し続けることができるため、繰越欠損金を相殺しきって黒字が出るまで、法人税を払わなくて済むのです。

(※平成30年4月1日以後開始事業の場合、最大10年間)

しかし、この節税方法は、繰越欠損金を持つ赤字企業しか使うことができません。黒字企業でもこの節税方法を使うためには、繰越欠損金を持つ赤字企業を買収・事業承継し、その繰越欠損金を使うことになります。

■買収による繰越欠損活用の注意点

 しかし実際には、赤字企業を買収して事業承継しただけでは、その繰越欠損金を使って節税することはできません。繰越欠損金は特定の株主に50%以上の株式を保有されている場合、買収(特定支配関係が生じた日。以下、特定支配日とする)から5年以内に次の条件に一つでも当てはまれば、消滅してしまうからです。

1.買収された会社が買収される前に休眠会社で、特定支配日以降に事業を再開する場合

2.買収された会社が特定支配日以降に事業を廃止し、支配日前直前の事業規模よりも多くの(約5倍)の借入れ、出資の受入れ等を行うこと

3.買収する会社が欠損等法人に対する特定債権を取得している場合で、買収された会社が買収以前の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れなどを行うこと

4.買収された会社が被合併法人とする適格合併を行う

5.買収によって買収された会社の役員全てが退任し、旧使用人の20%が退職した場合

要約すると、赤字企業買収後に、赤字企業の旧役員の退任や、従業員の20%の退職・配置転換が行われ、赤字企業の5倍以上の新規事業が始まると、繰越欠損金は消滅してしまうということです。

そうならないためには、「買収後も赤字企業の事業をほぼそのまま継続する」「そもそも特定の株主に50%以上の株式を保有されないように買収を行う」などの対策が必要です。

■まとめ

繰越欠損金のある会社を買収する形で事業承継する場合、節税できることもあります。しかし、条件を満たさなければ節税できないため、逆に経営に苦労するかもしれないというリスクも同時に負います。きちんと条件を満たせるよう、繰越欠損金のある会社を買収する場合は、事前に必ず専門家に相談しましょう。