事業承継時、相続人に保障された最低限の相続の権利が「遺留分」です。しかし、事業承継後に後継者が会社の価値を上げても、相続時にその分増えた遺留分が他の相続人に相続されてしまうという問題があります。
具体的にはどういった問題なのか、その問題に対し改正されている「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」についてもご紹介していきます。
なお、遺留分とは何かに関しては以下の記事でも解説していますので合わせてご覧ください。
目次
■中小企業の遺留分問題
遺留分とは、「相続人に保障された最低限の相続の権利」です。しかし事業承継では、承継時と相続時にずれが生じるため、遺留分が増え、後継者の手元に残る財産が本来より少なくなる現象が起きています。
その現象や対策として制定された法律について説明していきます。
◇「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が平成20年5月に制定された背景
遺留分は、後継者以外の相続人に規定の割合で分け与えられます。
例えば、会社を経営する父親に、長男・長女・次男の3人の子供がいるとします。現経営者が長男を後継者として事業を承継した場合、長女・次男も相続人であるためそれぞれ財産の1/6ずつ遺留分として相続する権利があります。
そこで、事業承継時は6,000万円だった財産を、長男が頑張り1億2,000万円まで増やしたとします。しかし、遺留分は事業承継時でなく相続発生時に評価(決定)されるため、6,000万円のままならその1/6である1,000万円ずつ渡せばよかった遺留分が、長男の頑張りにより2,000万円(1億2,000万円の1/6)も払わなければならなくなってしまうのです。
これでは、後継者である長男はやる気が起きませんし、事業承継自体もなかなか進みません。
そこで、後継者のやる気を維持し事業承継をより円滑に進めるため、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が平成20年5月に制定されたのです。(以下、「経営承継円滑化法」という)
■経営承継円滑化法による効果
制定された文言の中でも効果的だったのが「民法特例」で、相続時の自社株の評価額を贈与時の価格に固定する「固定合意」と、自社株を遺留分の対象から除外する「除外合意」の2種類があります。
◇固定合意
固定合意は、弁護士や公認会計士などから「相当な価額である」との証明を得た上で、合意した価額に遺留分の評価を固定する特例です。
合意後、相続開始時までに株式の価額が上下しても、遺留分算定の際には合意した価額で計算します。これにより、後継者の努力によって財産が増えたからといって、遺留分も増えるという事態を防ぐことができます。
◇除外合意
除外合意は、生前贈与した株式を遺留分算定の基礎財産から除外する旨の合意を行う特例です。株式以外の財産については、固定合意による方法はとれず、この方法のみが可能です。なぜなら、後継者の経営努力によって価値が上下するものは株式のみだからです。
なお、固定合意または除外合意を推定相続人全員の間で書面により行い、経済産業大臣の確認を経て、家庭裁判所の許可を申請できるようになりました。このため遺留分の調整にまつわる利便性も向上し、事業承継の推進に寄与することとなりました。
■さらに「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律(承継円滑化法)」が平成28年4月に施行
「経営承継円滑化法」制定後も、平成28年4月にさらに改正・施行されています。なぜさらに改正されたのか、その理由と内容をご紹介します。
◇経営承継円滑化法の改正理由と内容
「経営承継円滑化法」により進むかと思われた事業承継でしたが、その後事業承継の形態が多様化し、20年前は1割だった親族外承継が近年は約4割と増加傾向となるなど、新たな課題も出てきました。
また、民法上の遺留分の制限・代表者交代による信用不安・自社株等にかかる多額の相続税・贈与税負担が課題として浮き彫りになりました。
そこでその状況に対応すべく、さらに「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律(承継円滑化法)」が平成28年4月に施行されたのです。
改正内容は、
①遺留分に関する民法の特例
②金融支援制度
③相続税・贈与税の納税猶予の特例が創設
の3つです。
特に①の遺留分に関する民法の特例については改正前からありましたが、株式以外の一定の財産も除外することが可能となるなど、後継者に寄り添った法律へと改正されています。
また、遺留分特例制度の対象を親族外へ拡充することや、小規模企業共済制度における親族内承継等の共済金引上げ等の措置を講じています。
■まとめ
度重なる承継円滑化法の改正により、事業承継の際に後継者以外に余計な遺留分を渡さないための対策が色々とできるようになりました。しかしまだまだその手続きは複雑かつ、慎重に進めていくことが必要です。
事業承継時の遺留分問題にお悩みの経営者・後継者候補の方は、一度専門家に相談することをおすすめします。