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事業承継の相続税対策としてできること

記事作成日2017/09/14 最終更新日2017/09/14

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12 事業承継の相続税対策としてできること

事業承継をする際には、経営者に万が一のことがあった時に備えて相続税の対策が必要です。
相続税や贈与税に関しては、納税の特例も用意されていますが、そういった情報を知っておくことがリスク管理には有効です。

今回は、事業承継の相続税対策についてご紹介します。

事業継承による相続税のリスクは高い

まずは、事業承継による相続税のリスクにどのようなものがあるかを明確にしておきましょう。

相続財産の申告漏れリスク

経営者ともなると、複数の不動産や株式などの有価証券など、多くの財産を保有していることが一般的です。しかし、相続の対象になる財産を全て把握できていない場合、申告漏れがあると後々追徴課税されかねません。相続財産を把握しにくいというリスクがあります。

相続税の納税資金を準備できないリスク

相続税は、経営者の死亡から10ヶ月以内という短期間に納めなければなりませんが、相続財産が大きければそれだけ相続税も高額になります。
相続財産に占める現金の割合が低いと納税資金を用意できないリスクもあります。

事業承継においてできる相続税対策とは

このようにリスクが伴う事業承継による相続税ですが、少しでも相続税を節税するため、または納税資金を準備しておくための対策はどのようにとることができるのでしょうか。

経営者が生命保険に加入する

経営者が生命保険に加入しておくことで、万が一の際には保険金を相続税の納税に充てることができます。
また、事業承継の際には後継者に株式を譲渡しますが、後継者が子息であって他にも兄弟がいる場合には、兄弟を保険金受取人にしておくことで、後継者に事業用資産を多く遺すことが可能になります。

現金を不動産などに変えて相続税の評価額を下げる

不動産は経営者死亡時の評価額で評価されますが、これは時価を基準にするのではなく、一般的にそれよりも20%から30%ほど低い相続税評価額や固定資産税評価額を基準にします。
そのため、現金で保有しておくよりも、不動産で保有しておくほうが相続税を減額することができるというわけです。
ただ、地価の変動によっては必ずしも節税対策になるわけではない点には注意が必要です。

相続税の納税猶予や免除制度

相続税や贈与税に関しては、非上場会社の中小企業を対象として「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除の特例」という制度が用意されています。
これは、対象となる会社が事業承継の際に一定の手続きを行えば、将来にわたって相続税や贈与税の大部分が猶予、または免除されるという制度です。

相続税の納税猶予や免税を受けるための要件

この制度を受けるために、会社・先代経営者・後継者に対しそれぞれ要件が求められます。会社に対しては、中小企業であること、非上場会社であること。また、従業員が1人以上であることに加え、風俗営業会社や資産保有型会社などにあたらないこと等が求められます。

先代経営者に対しては、会社の代表者であったこと。
相続の直前のタイミングで総議決権の50%超以上を保有しており、後継者を除いた者の中で筆頭株主であったことが求められます。

後継者に対しては、相続時に総議決権の50%超以上を保有しており、最も多く株式を保有していること。
相続が開始される直前に役員となっており、相続後5ヶ月の時点で会社の代表者であることが求められます。

この他、納税が猶予される相続税に相当する額の担保を税務署に提供しなければなりません。

納税猶予の適用による納付税額の違い

納税猶予の適用を受けると、どの位納付税額に違いがあるのか、実際に計算してみましょう。
条件は以下の通りとします。

相続人:経営者の子供である甲乙の2人
相続財産:甲 5億円(全て自社株で議決権比率は100%)、乙 1億円(その他の財産)

【1】納税猶予適用なし

1. 課税価格
600,000千
2.相続税の総額
(1) 600,000千-(3,000万+600万×2人)=558,000千
(2)558,000千円÷2=279,000千
(3)279,000千円×45%-2,700万=98,550千
(4)(3)×2=197,100千
3.甲乙の相続税
(1)甲:197,100千×500,000千/600,000千=164,250千
(2)乙:197,100千×100,000千/600,000千=32,850千

【2】納税猶予あり

甲が特例の適用を受ける非上場株式等のみを相続した場合の相続税額

1.課税価格
(500,000千×2/3+100,000千)-(3,000万+600万×2人)=391,333千
2.相続税の総額
(1)391,333千÷2=195,666千
(2)195,666千×40%-1,700万=61,266千
(3)61,266千×2=122,532千
3.甲乙の相続税額
(1)甲:122,532千×333,333千/433,333千=94,255千
(2)乙:122,532千×100,000千/433,333千=28,277千

甲が特例の適用を受ける非上場株式等を20%のみ相続した場合の相続税額

1.課税価格
(500,000千×2/3×20%+100,000千)-(3,000万+600万×2人)=124,666千
2.相続税の総額
(1)124,666千÷2=62,333千
(2)62,333千×30%-700万=11,699千
(3)11,699千×2=23,398千
3.甲乙の相続税額
(1)甲:23,398千×66,666千/166,666千=9,359千
(2)乙:23,398千×100,000千/166,666千=14,039千
4.納税猶予適用後の相続税額
(1)甲:164,250千-(94,255千-9,359千)=79,354千
(2)乙:32,850千

相続税対策を立てておくことが円滑な事業承継とその後の会社の運営のためには必要です。
納税猶予制度もありますので、それらを利用しながら相続税に備えましょう。