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事業承継の方法(手法)にはどのようなものがある?

記事作成日2017/07/10 最終更新日2022/03/10

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事業承継の方法は、オーナー様の事業内容や現在の業績といった総合的な観点から選択する必要があります。今回は、「事業承継とは何か」から、近年の中小企業を取り巻く現状、具体的な事業承継の方法とそれぞれのメリット・デメリットまでを解説したいと思います。

事業承継とは

事業承継(じぎょうしょうけい)とは、一般に会社の経営を後継者に引き継ぐことを言います。経営者にとって、最後にして最大の経営判断と言い換えても良いでしょう。事業承継において大切なことは後継者を選ぶことだけではありません。人生をかけて作り上げた組織、豊富な経営ノウハウ、長年少しずつ関係を広げた人脈、企業理念をどのようにして後継者に引き継いでいくかが重要です。

大手企業ではそれぞれの部署、組織の範囲において権限と責任が分かれていることが多いですが、中小企業では業務分掌(ぎょうむぶんしょう)が存在しないことが少なくありません。製造、営業、総務と部署が分かれていても、何か大きな決断を下す際には社長の許可が必要になることがほとんどです。

一方で、このスタイルこそが中小企業が持つ強みでもあります。経営者が先陣を切ることでスピーディな意思決定が可能です。経営者が社員一人ひとりにまで気を配って育成し、きめ細やかに顧客に対応することが質の高い商品やサービスにつながっています。

一見、ワンマンとも取れる中小企業の企業風土が、日本経済の地盤を支えてきたといっても過言ではないでしょう。そのため、中小企業は経営者への依存度が高い分、次の世代へと事業を引き継ぐ際には入念な準備とバランス感覚が重要になります。

事業承継の定義

なお、実は「事業承継」という単語を明確に定義している法令等はありません。一般的に事業承継には、経営を引き継ぐ後継者探しという側面と、相続税対策の側面があると言われています。本稿では事業承継を以下の3つを承継することと定義いたします。

①経営(人)の承継

会社の新しい顔として、経営を任せる人への承継です。先述した通り、中小企業では社長の判断能力やリーダーシップが、経営を大きく左右します。

親族や社員の中から後継者を選ぶのであれば、なるべく早い段階から事業を承継する準備を進め、経営者としての資質を養うことが重要です。また、M&Aによって外部の経営者を招き入れるのであれば、人を見抜く眼を経営者自身が磨いておくことが求められます。

②経営(無形資産)の承継

無形資産とは、経営理念や経営ノウハウ、人脈、顧客情報などに加え、許認可、特許、著作権、これまで育てた従業員が開発した技術などのような知的資産なども含む、目に見えにくい経営資源です。知的資産はもちろん、社長のみが持つ人脈や経営ノウハウは後継者へとしっかりと受け継ぐことが経営を安定させる基盤となります。

③財産の承継

財産とは、株式や事業用設備・不動産、運転資金や借入金などです。経営権に関わる株式は移転のタイミングや対策によって税金が大きく異なります。財産の承継は個人で実行するのは難しいため専門家に依頼するのがベターです。

事業承継に関する3つの承継

中小企業の事業承継をめぐる状況

中小企業を取り巻く状況

中小企業庁の発表によると、1999年には485万社あった中小企業は2016年には359万社と実に100万社以上減少しています。減少の要因は複数考えられますが、その一つが経営者の高齢化です。例えば1995年には47歳だった経営者の平均年齢が2018年には69歳と刻々と高齢化が進んでいます。

後継者が見つからずに廃業となる企業も多く、一つの社会問題になっています。ただし一方では、事業承継が進まない、経営を譲りたくても譲れない事情もあるようです。主な理由は以下の通りです。

理由1:取引先や古参社員との関係

社長独自のルートでつながる取引先や金融機関、古参の役員との良好な関係性を後継者が引き続き構築できるかが大きな課題となり、事業承継に踏み出せない経営者は多いようです。

理由2:生涯現役を貫きたい

社長業には定年がないため、「まだ働けるから」と事業承継が後回しになってしまうことも少なくありません。また、名目上は新しい社長を据えても、現経営者が顧問や会長として会社に残り実権を握ってしまい、新社長が育たない、企業の若返りができないケースもあります。

 理由3:納得できる後継者がいない

長年、世の中の荒波を超えてきた経営者にとって、新人経営者はどうしても未熟に見えてしまうのも原因です。自分の子どもと同じように大切に育ててきた会社を譲るに相応しい後継者に出会えないことで、事業承継に二の足を踏むことは少なくありません。

通常、誰しも新人経営者から始まり、経営を続けることで成長してゆくものです。未熟に見えたとしても信じて会社を任せることも必要ではないでしょうか。先行き不透明な世の中だからこそ、これまでにない発想と対応力で「進化」することが求められる時代です。「いつか、そのうち」ではなく、意識的に後継者を探しましょう。

中小企業の事業承継をめぐる詳細な状況についてはこちらの記事でも解説しています。

具体的な事業承継の方法とは

事業承継の方法には、主に以下の3つがあります。

【1】親族内承継

経営者の子ども、あるいは親戚に事業を引き継ぐことをいいます。事業承継の中では最もイメージしやすく、従業員や取引先からも理解を得やすい方法といえるでしょう。親族内承継のポイントは、現在の経営者の体制で順調に運営されている会社をどのような計画を立てて後継者に引き継ぐかです。

取引先との良好な関係性の維持・向上、従業員の労働意欲の増進を実現し、永続的な繁栄へ向けた取り組みが重要になります。一方で、親族内承継を相続税対策と捉え、相続対策と称した過度な節税思考や無計画な資本政策は後継者の経営の足かせになることがあるため、注意が必要です。

親族内承継のメリット

(1)取引先や従業員から信頼を得やすい
一般的に取引先や従業員は「あの人が社長ならついていけない」と考えるよりも、「親族に譲るのは当然だ」と理解する傾向が強く、社内外の理解を得やすいのは親族内承継最大のメリットでしょう。一方で、『就任後の経営手腕が問われる』のも親族内承継の特徴です。スムーズな承継、企業価値を向上させる施策が打てるかが注視されます。

(2)後継者候補を選ぶ時間を短縮できる
親族内承継の場合、自分の子どもや親戚と数が限られているので後継者候補の選抜に時間を取られることがありません。その分、社長としての能力を養う時間が多く取れるのも親族内承継のメリットです。取引先との関係構築や、社内の環境整備に集中することができます。

(3)所有と経営を一致
後継者が株式の過半を承継することによって、会社の実質的な所有者となります。会社の所有者と経営者が同一人物であることによって、後継者の会社経営に自由度が生まれます。

親族内承継のデメリット、注意点

(1)経営の意思と素質を持ち合わせる人材がいるとは限らない
現経営者の親族だからといって、経営者としての素質を持っているかは別の話です。安易に親族内承継を選択して経営が傾くことも珍しくはありません。「自分の子どもだから引き継いでくれるだろう」と安易に考えていたが、本人は全く継ぐ意思がなかったというトラブルもよくあるケースです。

(2)相続人が複数いる場合は、後継者以外への相続人に対する配慮が必要
反対に、経営者としての意思のある後継者が複数いる場合にも注意が必要です。後継者争いが起こることもあるため、後継者を選んだ際にはその他の相続人に対する配慮も忘れないでください。

(3)保証債務も承継することになる
事業運営に際し、金融機関からの借入に経営者が個人保証をしていることは少なくありません。相続の際、相続人に保証債務も相続することになります。

(4)後継者が一人で株式を相続する場合、相続税負担が多額になる可能性がある。
非上場株式は会社全体の価値で評価されてしまいます。そのため、何十年にもわたって利益を積み重ねた会社の場合には、その価値が予想外に高額となってしまうケースが多いです。一方で、非上場株式は容易に売却できず換金性が低いため、非上場株式を相続した場合、相続人は莫大な金額の相続税を支払う義務を負ってしまいます。親族内承継を行う際には、綿密な相続税対策も重要なポイントです。

親族内承継のメリット・デメリット

事業内承継については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

【2】親族外(役員・従業員)承継

親族以外を後継者とすることを言い、具体的には、共同創業者、役員、従業員から選定する方法です。自社株は経営者が保持したまま、社長としての地位を譲り、経営を任せることもできます。

親族外(役員・従業員)承継のメリット

(1)経営理念を承継しやすい
親族外(役員・従業員)承継最大のメリットは、会社のシステムや風土、歴史を熟知している点です。共に戦ってきた気のおけない仲間だからこそ、経営理念や仕事に対する姿勢を共有しやすいといえます。すでに周りの従業員との信頼関係が構築されていることが多いため、承継後に大きな問題が発生しにくいことも良い点です。

(2)広い候補者から選別が可能
親族内承継よりも広い選択肢から後継者を見極められます。また、親族内承継と同様に早めに後継者を決めることができれば、経営に関するノウハウを学ぶ時間を十分にとることも可能です。

親族外(役員・従業員)承継のデメリット・注意点

(1)資金面の問題で引き受けてもらえないことがある
後継者候補を選ぶ段階で、一番の障壁となるのが資金面です。先述しましたが、非上場株式を譲るには相当な資金が必要になります。株式の取得資金を金融機関から借り入れたり、会社の債務の保証を金融機関から求められたり、後継者への経済的負担が大きくなります。そのため、後継者本人に意欲はあっても家族の同意が得られずに破談となるケースは少なくありません。

(2)経営者になりたいという意欲を持つ社員がいない
そもそも社長になりたいと思って働いている社員がいないこともあります。特にワンマン経営を行ってきた場合、指示待ち社員ばかりが育ってしまい、自らが社長になり会社を引っ張っていく意思を持った社員が育っていないケースがみられます。

(3)改革が起こりにくい
従来の業務を安定的に継続していくだけなら親族外承継は最善の一手といえるでしょうが、現代はDXをはじめさまざまな改革が求められています。親族外承継の場合、現場に新しい風が起きにくいことを熟知した上で、積極的に変化していく努力が必要です。

親族外承継のメリット・デメリット

【3】M&A(企業の合併や買収)

M&A(企業の合併や買収)とは、完全な第三者である企業へ、事業を引き継ぐ方法です。取引先や同業者へ相談する、M&Aアドバイザーと契約し買い手となってくれる企業を探す、公的機関である事業引継ぎ支援センターに相談するといった方法があります。

M&A(企業の合併や買収)のメリット

(1)より広い範囲から後継者を選べる
親族内外の承継よりも広い範囲から後継者を選出することができます。

(2)従業員の雇用を守れる
親族内外の承継が不可能な場合、M&Aを選択しなければ、現経営者の引退と共に会社は廃業となります。すると、これまで会社に尽くしてくれた従業員も解雇せざるを得ません。地方では再就職を探すことも難しく、雇用を守ることは従業員の人生を守ることと同義となります。

(3)他社とのシナジー効果が期待できる
他社の技術や営業力が入ることで、自社の技術発展が望めたり、販路が拡大したりとシナジー効果が望めます。このシナジー効果こそ、買い手企業がM&Aを行う目的です。

(4)個人保証から解放され、ハッピーリタイアが可能になる
金融機関から借り入れを行い土地や設備を購入する場合、経営者自らが保証人となることが多く、その債務保証を我が子や従業員に負わせたくないという考えから廃業を選ぶ経営者は少なくありません。M&Aでは特別な事由がなければ多くの場合、債務も含めて売却することが可能です。創業者利益も享受でき、ハッピーリタイアも夢ではありません。

M&A(企業の合併や買収)デメリット・注意点

(1)経営理念や企業風土の伝達が難しい
外部から新しい経営者を招くため、これまで培ってきた企業風土にすぐ順応するのは困難です。また、新しい経営方針や企業文化は既存の社員にとってはストレスとなる可能性があります。

(2)根強いネガティブイメージ
過去にクローズアップされた敵対的買収などによって、M&Aに対するネガティブなイメージは今もなお根強く残っています。ネガティブなイメージは徐々に改善傾向にありますが、それはあくまで経営者レベルでの話です。経営者は正しい知識を得ていても、一般の従業員まで浸透しているわけではありません。M&Aによって従業員のモチベーションが下がり、人材が流出することもあります。

(3)M&A成約・実行までに時間がかかり、最悪の場合買い手が見つからないこともある
M&Aには専門のアドバイザーの存在が必須といってもよいと思います。アドバイザーの決定からM&A成立までは多くのプロセスがあり、相応の時間が必要です。買い手がすぐに見つかれば良いですが、戦略を誤ると最悪買い手が現れないということも考えられます。

M&Aのメリット・デメリット

廃業が最善の選択肢となることもある

事業の状況によっては、廃業という選択肢が最善になることも考えられます。廃業のメリットとして、保有資産や業績によっては創業者利益を得られることがある点です。また、リタイアの時期をオーナー様自身の決断によって実現することができます。

デメリットは、共に働いてきた従業員を全員解雇しなければならないことでしょう。また、取引会社はサプライチェーンを再構築する必要性が生じ、多大な迷惑を掛ける可能性があります。

後継者となる親族の有無、承継する企業の規模や業績、さらには後継者の年齢や意向によっても、選択する事業承継の方法が異なります。各手法のメリット・デメリットについて理解を深めることが、円滑な事業承継のポイントです。

事業承継を成功させるための秘訣

我が子のように大切に育ててきた会社を廃業したり、他者に譲ったりすることはできることなら避けたいものです。しかし、従業員を雇い入れ、他人の人生に関わった時点で会社は経営者だけのものではありません。永続的に会社を発展させていくためには後継者へ事業を承継することは必要不可欠です。では、どんな点に気をつければ良いのでしょうか。

誰にどうやって引き継ぐか

中小企業の事業承継は「経営の承継」と「財産の承継」のバランスをとることが大きなカギと言われています。事業の中核であり、目には見えない「経営の承継」を誰にどうやって受け継ぐのかは大切なポイントですが、目に見える「財産の承継」を優先させてしまう傾向にあります。

中小企業では業務プロセスが「見える化」されていないことも多く、いわゆる経営の“コツ” が経営者の頭の中だけに存在することも少なくありません。事業承継の方法は種々ありますが、自社が「経営の承継」にあたって取り組むべき課題を「見える化」し、優先順位をつけ、一つずつ、確実に課題をクリアしていくことが大切です。

早めに事業承継を意識する

経営者が現役で働ける、経営が上り調子の時にこそ事業承継の準備を始めることが成功の秘訣です。なぜなら、事業承継には一定の時間を要するため、経営者に余力があるうちに後継者を探し、育成に取り組むべきだからです。また、企業サイクルは創業期、成長期、成熟安定期、衰退期に分けることができます。

衰退期に入ってから事業承継を考え始める経営者は少なくありませんが、売上が落ちはじめた企業に果たして魅力はあるでしょうか?親族内外への承継においては断れられる可能性が高まりますし、M&Aでは買い手企業に安く買い叩かれる要因にもなります。安定・衰退期に入る前から準備を行い、創業者利益の最大化を目指しましょう。

事業承継は早めの対策が肝心

事業承継に関する情報を収集する方法

スムーズな事業継承を行うためには、なるべく早めに取り組むことが大切です。そして、事業承継には多岐に渡る専門知識を有するパートナーが欠かせません。なんでも相談できる専門家を見つけることが、事業承継のはじめの一歩といっても過言ではないでしょう。1社1社、企業を取り巻く環境は千差万別のため、事業承継に絶対的な正解はありません。

TOMAは、事業承継のあらゆるスキームを知り尽くした専門家集団です。

多角的な視点からあなたの企業を全力でサポートします。TOMAでは、事業承継に関する資料のご提供や専門家によるセミナーを実施しています。事業承継について考えはじめた際にはぜひ一度ご相談ください

(出典)
中小企業庁「中小企業の数」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b1_3_1.html
中小企業庁「経営者の世代交代」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf

監修 TOMAコンサルタンツグループ コーポレートアドバイザリー部