自分がやってきた事業を、自分が見込んだ人に引継ぐこと――それは1つの時代の終わりであると同時に、新しい時代の訪れを告げる幕開けでもあります。しかし、このように行われる「事業承継」には、さまざまな問題点があることも確かです。ここでは、その問題点とその解決策について見ていきましょう。
事業承継を進めるにあたり問題となることにはどのようなことがあるか
事業承継を行う際にはどのようなことが問題となっているのでしょうか。これは、平成26年に中小企業庁より発表された「事業承継等に関する現状と課題について」に詳しく述べられています。親族に引継ぐ場合の問題点の1位は、「経営者としての能力や資質が不足」というもの。そして2位に「相続税などの問題」が挙げられます。3位は親族に引継ぐからこそ起きる「公私混同」、4位は「本人がNOと言っている」などがランクインしています。
親族以外が引継ぐ場合は、なんと1位から4位までがすべて「資金繰り」の問題です。
1位は、「事業承継を行う人間が、借入金に対する個人保証の引継ぎもしなければならないこと」。
2位と3位は「自社株(2位)や事業用の資産(3位)を買い取るのが難しい」というもの。
そして4位には、「前任者が築き上げた金融機関との関係が、新しい世代が引継ぐことで維持するのが難しくなる」というもの。
「後継者を育てられなかった、育てるのが難しい」というものは意外なほどに少なく、5位にとどまっています。(中小企業庁「事業承継等に関する現状と課題について」)
事業承継の問題点に解決策はあるのか?
前述した問題を完璧に回避したり、解消したりする手段を考えるのはなかなか難しいと言えます。特に、「本人の力や資質不足」「本人がNOと言っている」「公私混同をしている」などの場合は、後継者本人の性格やそれまでの教育不足によるところも大きく、すぐに解決できるものではありません。ただ「公私混同」の場合は、単純に知識が足りないために起きてしまっていることもあります。
経費として計上すべきところを自分のポケットマネーで出してしまったり、自分のポケットマネーで処理するべきところを経費としてあげてしまったりすることは、「公私混同」の代表例と言えます。
極端な話をすれば「取引先の人間に(常識的な金額の)誕生日プレゼントを贈ることは、経費として計上できることを知らなかった」「知人に軽い仕事を任せて、高額の給料を渡すことが経費にならないことを知らなかった」のようなケースもあるでしょう。「知らなかったこと」が原因で起こったことは、一度学んでしまえば、同じようなことを繰り返すことはなくなるものです。
相続税対策について考えましょう。
「会社を継いでくれる長女に、すべての株を相続させる」という遺言を残そうとする場合、他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性も考慮しなければなりません。このようなケースでは、事前に生命保険などで他の相続人の遺留分が確保できるように対応します。また、税理士のアドバイスを受けながら株価を下げたり、事業承継税制を使って納税猶予の適用を受けたりすることも有用です。
また、事業承継ローンを利用することで、資金繰りに時間的な猶予を持たせる方法もあります。
事業承継をするときは、多くのお金が動き、多くの人の感情が揺れ動くものであるということを理解しておかなければなりません。そして、「いざ、その時」が来る前に、さまざまな対策を講じておく必要があるのです。