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事業承継におけるM&Aという選択肢

記事作成日2017/09/12 最終更新日2017/09/12

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事業承継は、「経営者が後継者に事業を引継ぐこと」を基本的な意味としますが、近年は、親族や社員を後継者として会社を託すことが困難な場合も多く、M&Aを選択する企業が増えてきています。

今回は、事業承継の選択肢として、会社を第三者に譲渡する「M&A」についてご紹介します。

急増するM&A

1.事業承継におけるM&Aという選択肢少子高齢化が進む日本では、会社の後継者不足という問題が同時進行しています。これは、経営者に子がいない、子や親族に事業を継ぐ意志がない等が大きな理由のひとつです。

また、社員の中に後継者を見出そうとしても、社員にも継ぐ意志がない、継ぐ意志はあっても、譲り受けるための資力不足を解決できないといった場合もあります。

この結果、事業承継はなかなか進まず、廃業を余儀なくされる会社が発生しているのです。

帝国データバンクの調査によると、全国の社長の団塊世代割合は11.3%であるにも関わらず、交代率3.97%と発表されており、いかに世代交代(事業承継)が進んでいないかを物語っています。(帝国データバンク 「全国社長分析2017」より)

廃業は、従業員の生活にはもちろん、取引先にも影響を与え、清算後の手取りに関しても税制面の優遇はありません。何よりも、築き上げてきた会社の消滅は辛いものですし、優良会社であれば、国としても損失でしょう。

この問題を解決すべく急増してきたのが会社譲渡、つまりM&Aです。

事業承継におけるM&Aとは

「M&A(Mergers & Acquisitions)」の直訳は「合併と買収」です。

ただし、「合併」は、人員削減の不安や手続きが煩雑であることを理由に、日本の中小企業に馴染まない傾向にあります。そのため、日本の中小企業におけるM&Aは、株式譲渡の方法による「買収」がほとんどです。

つまり、事業承継におけるM&Aとは、他社(他者)への株式譲渡により、事業承継を行う方法を意味します。

 言葉の響きからマイナスイメージを持つ方もいますが、中小企業のM&Aは、成長のための新たな事業展開として検討することが多いため、従業員がそのまま就業することが買収の条件である場合もあり、人員削減などの心配は少ないと考えられます。

中小企業庁の『事業引継ぎハンドブック』でも、M&Aは社外に後継者を求める事業引継ぎのひとつであり、日本では中小企業の友好的M&Aが増えてきていると紹介しています。(中小企業庁財務課 事業引継ぎハンドブック

M&Aを実現させるには、売却先を選定する時間が必要ですし、会社を第三者に売却するのですから、会社の魅力の明確化や内部統制の見直し、不必要に大きな負債を返済するなどして、今より企業価値を上げる努力も不可欠です。

売却が決定した後も、より詳細な事業評価のための努力と時間、交渉なども要しますから、簡単なものではありません。そもそも、M&Aを成功させるための専門家の選定も重要でしょう。

大変な労力と感じるかもしれませんが、後継者問題の解決や税制面でのメリットなど、労力を超える利点があるからこそ、M&Aが増えているのです。

M&Aのメリットとデメリット

M&Aが事業承継の選択肢のひとつとして台頭してきた理由を上述しましたが、ここでM&Aのメリットとデメリットを整理してみます。

M&Aのメリット

・後継者問題の解消
・会社の存続(築いてきた技術やノウハウの存続)
・従業員の雇用の安定(生活の安定)
・取引先との関係存続
・利益を増やし、税負担が抑えられる

親族内、従業員という限られた後継者選択から解放され、会社が築いてきた技術やノウハウを絶やさずに済み、会社を支えてくれた従業員の雇用を確保できるのは、M&Aの大きなメリットと言えるでしょう。取引先の安定にも繋がり、廃業の連鎖も可能性が低くなります。

そして、廃業に比べると、金銭面でもメリットがあります。

廃業による清算処理では、会社資産を現金化し、債務等を消化して残ったものが経営者の配当となるだけですが、M&Aであれば、築き上げた技術やノウハウ、取引先との信頼関係等も評価されることで、高い買い取り額が期待できます。

また、廃業によって手元に残った財産は、総合課税として最大約56 %の税率がかかりますが、M&Aは株式譲渡のため、分離課税として20.42%ですみます。企業価値にも税率にも、違いが出てくるという訳です。

M&Aのデメリット

・各工程において時間がかかる
・M&Aの検討中に従業員や取引先に漏れることで、思い通りに計画が進まない場合がある

M&Aの成立には、売却先の選定だけでも、短くとも数カ月、場合によっては数年かかることも考えられます。その間に会社の磨き上げ(価値を上げる)も必要ですし、交渉時間も必要です。情報が思わぬ形で漏れてしまうことは、従業員の不安をあおることになり、経営の安定に支障をきたす可能性もあります。

ただし、これらのデメリットは、M&A以外の選択肢でも課題となりますから、どの選択をしても、事業承継には余裕を持った対策が必要であると言えそうです。

以上、事業承継の選択肢としてM&Aについてご紹介しました。今まで、事業承継の方法として発想しなかったM&Aという選択肢を、個人や経営陣のみで突き詰めて考えることは難しく、壁も多いはずです。親族内、従業員内を見回して、後継者選びや会社の存続に難題がありそうだと思うことがあれば、早い段階で検討を始めるために、事業承継やM&Aの専門家に協力を求めることが大切でしょう。