後継者が適正な割合で株式を保有できれば、安定した事業承継を行えます。しかし株式が分散してしまうと、リスクが発生しやすくなるでしょう。例えば、議決権の分散により会社の支配権を確立しにくくなる理由が挙げられます。
そうならないためにも、分散した自社株を再集中させて対策を練らなければなりません。ここでは、事業承継における株式分散のリスクと集中化の方法を詳しく検証いたします。
■株式分散のリスク
株式分散が起きてしまうと、後継者が保有できる株式数割合が減ります。そして後継者以外にも、拒否権や支配権を持つ株主が現れてしまうでしょう。もし、相手が会社にとって好ましくない人材、無関係な第三者となるとリスクが高まります。方針決定や役員選任など、会社における重要な意思決定でさえもうまく行えません。つまり、後継者に一定割合の株式がないのは、「経営権が買収される状態」なのです。
ほかにも帳簿閲覧権により会社の問題点を指摘され、経営者が訴訟される事態が起こります。最悪の場合、従業員のリストラも余儀なくされるでしょう。会社の存続が危うくなる前に、株式分散を防ぐように努めてください。
■なぜ株式は分散するのか
そもそもなぜ、株式が分散するのでしょうか?いくつか理由がありますが、例えば複数の人間による共同経営が挙げられます。創業時に数株単位で保有する「少数株主」、名義だけを借りる「名義株式」なども株式分散を引き起こします。会社の成長により株価が上昇し、経営に関与しない親族に株式を分散するケースも目立つのが現状です。
過去に株式公開を中止した際に、株式分散が生じることも考えられます。役員・取引先・従業員に株式が行きわたり、そこから相続関係でトラブルに発展する恐れがあります。事業承継時には、後継者以外に株式を分散させない工夫が必要なのです。
■分散した株式の集中化
株式を集中させるためには、後継者もしくは会社が、他の株主から買い取るようにしましょう。他の株主から株券を受け取り、株主名簿を書き換えにより請求を行ってください。
もし株券を所持していない場合、株式の譲渡契約を結んだうえで、株主名簿の書き換え請求を行います。ちなみに会社が買い取る株式は「金庫株」と呼ばれ、株主総会で告知をしてから取得します。金庫株により他の株主の議決権がなくなり、後継者の議決権割合が高まるという仕組みです。
ほかにも、会社が新株を発行し、後継者に割り当てる方法もあります。
ただ、いずれの手段も周囲の同意を得るのに時間がかかります。できるだけ早い段階で、分散した株式の集中化を図りましょう。場合によっては、株式譲渡制限、拒否権付き株式の検討、生前贈与と遺言など、ありとあらゆるアプローチで後継者に株式を集中させることも大切です。
多方面から非難を浴びないように、税理士や弁護士に相談してから計画的に進めるようにしてください。
■まとめ
事業承継における株式分散は、なるべく避けたい事態とされています。後継者に一定割合の株式が集中していないと、拒否権や支配権を持つ株主が現れてしまうからです。会社にとって不利になる相続人が現れる前に、後継者への株式の集中化を図りましょう。経営に参加していない株主が多く現れるのは、事務的な手間や経営上のリスクを考慮すると好ましくありません。
とはいえ、無理やり株主から株式を取り上げるのではなく、相手の同意を得る手段を検討しましょう。
特に会社が成長するほど、特別な株式を発行して株式分散を未然に防ぐことが求められます。時には生前贈与と遺言を用いて、後継者への株式の集中化を合理的に行わなければなりません。現経営者があらかじめ準備を進めていれば、後継者も安心して事業経営に専念できます。十分な対策を練り、スムーズに事業承継を行っていきましょう。