優良企業ほど株価が高い傾向にあり、事業承継時に贈与税や相続税の負担が大きくなることがあります。このことから、納税資金に不安を抱える経営者は少なくありません。
以下では、税金の負担軽減に繋げることができる納税猶予についてご紹介します。
目次
相続税・贈与税の納税猶予とは
日本が直面している少子高齢化の影響によって、経営者の高齢化や後継者不足といった課題を抱えている中小企業が多くあります。
そこで、事業承継における納税負担を軽減し、円滑に事業を引き継げるように経営承継円滑法が制定されました。
制度の適用には、事業を継続することが大前提となります。引き継いだ会社の従業員の雇用を8割維持しなければならないなどの要件はありますが、相続税や贈与税の納税を猶予(引き延ばす)できるだけではなく、猶予されていた税金の納付が免除となる場合もあります。
贈与税の納税が猶予されるメリットとは
現経営者が後継者に自社株で贈与した際に、発行済議決権総数の2/3までの株式について贈与税の全額を猶予できるため、納税負担を大きく軽減できる点が最大のメリットであると言えるでしょう。
また、事業を後継者に引き継いだ後に経営者が亡くなった場合、猶予されていた贈与税は免除となります。
その代わりに相続税として課税されることになりますが、次で紹介する相続税の納税猶予を受けることができます。
相続税の納税が猶予されるメリットとは
後継者が自社株を相続する場合、通常は相続税が発生します。
しかし、相続税の納税猶予の特例によって、後継者が相続する発行済議決権総数の2/3に達するまでの株式等の相続税の80%について納税を猶予することができます。
また、後継者が亡くなった場合、一定の要件をクリアしていれば猶予している相続税の納税が免除される点もメリットと言えるでしょう。
納税猶予を適用するための要件とは
納税猶予を受けるには、会社が所在する都道府県知事から、相続税・贈与税共に「円滑化法の認定」を受ける必要があります。
この「円滑化法の認定」を受けるためには、贈与税の場合は、原則として贈与された日の属する年の翌年1月15日までに申請を行う必要があります。
相続税の場合は、原則として相続開始後8ヶ月以内に申請を行わなければなりません。
そして、納税猶予を受ける会社、現経営者、後継者のそれぞれが満たすべき主な要件は、以下のとおりとなっています。
会社が満たすべき主な要件
- 中小企業であること
- 上場会社、風俗営業会社でないこと
- 常時使用する従業員従業員が1人以上であること
- 資産管理会社に該当しないこと
現経営者が満たすべき主な要件
- 会社の代表者であったこと
- 相続開始直前において、現経営者と現経営者の親族などとで総議決権数の過半数を保有し、かつ経営承継受贈者(又は経営承継相続人等)を除いたこれらの者の中で筆頭株主であったこと
後継者が満たすべき主な要件
- 現経営者の親族であること
- 相続開始の直前において役員であり、相続開始から5ヶ月後に代表者であること
- 相続開始時において、後継者と後継者の親族などとで総議決権数の過半数を保有し、かつこれらの者の中で筆頭株主であること
(中小企業庁 「事業承継の際の相続税・贈与税の納税猶予制度」)
納税猶予制度における注意点
納税猶予制度を受け続けるためには、相続税・贈与税の申告期限の翌日から5年間、以下の要件を満たす必要があります。
もし、要件を満たせなかった場合は、猶予されている税金の全額と利子税を納めなければなりません。
1.後継者が会社の代表者であること
2.申告期限後5年間の平均で、雇用の8割以上を維持していること
3.後継者が筆頭株主であること
4.上場会社、風俗営業会社に該当しないこと
5.猶予対象株式を継続保有していること
6.資産管理会社に該当しないこと
(中小企業庁 「事業承継の際の相続税・贈与税の納税猶予制度」)
さらに、5年経過後も、上記5と6の要件が満たせないと、猶予されている税金の全額または一部を納税しなければならない点にも注意が必要となります。日本を取り巻く経済環境は、目まぐるしく日々変化を遂げています。
会社にとって納税猶予のメリットが大きいことは確かですが、外部環境の変化によって5年後に要件を満たせなくなる可能性があります。
この点が、納税猶予制度の限界とも言える側面であるため、注意すべき点と言えるでしょう。相続税・贈与税共に納税猶予制度を活用することで、納税負担を軽減し事業承継が円滑に進めることができます。
しかし、注意すべき点もあるため、納税猶予制度の仕組みをきちんと理解することが大切です。
税理士をはじめとする専門家に相談することも効果的と言えます。
ぜひ早めの対策をとるようにしましょう。