事業承継の際、「後継者に運営の決定権を一任したいが、全ての株式は取得させられない」「後継者に株式を取得させたいが、慣れるまでは最終決定権はこちらが持っていたい」など、様々な悩みがあるかと思います。
そんな悩みを解決してくれるのが、「種類株式」です。種類株式とは一体何なのか、事業承継の際はどの種類株式をどのように使えばいいのか、以下でご紹介していきます。
目次
■種類株式とは
「種類株式」とは、一般的に株式にはない、特別な権利が付与された株式です。会社法第108条1項の9つの号に基づいて定められており、様々な用途があります。
一方、特別な権利が付与されていない一般的な株式は「普通株式」と呼ばれます。
種類株式の内容については、平成13年11月の商法改正により拡充され、その後数回にわたって改正され、平成18年5月から施行された会社法によって確立しました。
会社の自主性を重んじる会社法によって確立されたことで、会社や株主の状況により幅広い用途が可能となりました。種類株式はうまく活用することができれば、事業承継に有効な手段となります。
実際に発行可能な種類株式は以下の9種類です。
①配当優先株式
②残余財産分配優先株式
③議決権制限株式
④譲渡制限株式
⑤取得請求権付株式
⑥取得条項付株式
⑦全部取得条項付株式
⑧拒否権付株式(黄金株)
⑨種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式
また、これらの内容を掛け合わせた株式を発行することも可能です。このため、その種類はかなり多岐にわたります。
なお、種類株式を導入するにあたっては定款変更が必要となるため、株主総会の特別決議が必要です。
■事業承継で活用できる種類株式は、③議決権制限株式 と⑧拒否権付株式(黄金株)
なかでも、事業承継で活用しやすい種類株式は、③議決権制限株式 と⑧拒否権付株式(黄金株)です。
それぞれの特徴をご紹介します。
◇③議決権制限株式
株主総会の一部または全部において、議決権を行使できない株式です。
後継者以外にも株式を移転しなければならない場合に有効だといわれています。運営への影響力を少なくする代わりに、①配当優先株式や②残余財産分配優先株式と組み合わせて金銭的なメリットを追加することで、株式移転や事業承継をスムーズに行うことができます。
◇⑧拒否権付株式(黄金株)
株主総会、取締役会等の決議事項を拒否できる株式です。
その決議のほか、種類株主総会の決議を必要とします。「後継者に株式を取得させたいが、慣れるまでは最終決定権はこちらが持っていたい」といった場合などに有効です。
■種類株式の活用方法
では実際に、③議決権制限株式と⑧拒否権付株式(黄金株)はどのように使用するのでしょうか?
具体例をご紹介していきます。
◇③議決権制限株式の使用例
経営者Aとその配偶者B、その子C・Dがいると仮定します。
経営者Aは子Cに全ての株式を取得させ、後継者として運営を任せたいと考えていますが、民法上「遺留分」が認められるため、配偶者Bに財産の1/4、子Dに財産の1/8、つまり株式の一部を取得させなければいけません。
その場合、全員に普通株式を取得させてしまうと、子Cは最大でも62.5%の株式しか取得できず、単独で重要事項を決定することができなくなってしまいます。
そこで、子Cには普通株式、配偶者B・子Dには議決権制限株式を取得させれば、子Cが所持する普通株式は全体の2/3を超えるため、運営上単独での重要事項決定ができるようになります。
ただし、議決権制限株式だけを配偶者B・子Dに取得させるとその内容の差から諍いのもとになりやすいので、①配当優先株式や②残余財産分配優先株式を組み合わせて、金銭的なメリットを追加することでバランスを取るとよいでしょう。
◇⑧拒否権付株式(黄金株)の使用例
株主総会における取締役の選任決議について、過半数の議決権を有する者が賛成したとしても、拒否権付株式を保有していれば、種類株主総会の決議でこれを否決できます。
事業承継したいが後継者がまだ慣れていない・未熟である場合は、このように拒否権付株式(「黄金株」とも呼ばれます)を手元に残すことにより重要な決定に拒否権を発動することができます。
こうすることにより、まだ後継者に全ての判断を任せられない場合でも、株式を生前贈与することができるのです。
ただし、拒否権付株式の効果は強力であるため、④譲渡制限株式とする、「相続」を取得条件とした⑥取得条項付株式とするなど、第三者の手に渡らないよう工夫しておく必要があります。
■まとめ
事業承継において、種類株式は様々な状況に合った効果を発揮する、非常に便利な株式です。しかし、種類株式の内容やその使用方法はかなり複雑です。最適で間違いのない利用ができるよう、種類株式の導入にあたっては税理士などの専門家に必ず相談しましょう。