4月は新入社員の入社や組織体制の変更など“人”や“組織”に関する変化が多い月です。中小企業の人材確保が難しくなっている昨今、新たな人材を定着させ、育てる取り組みは、企業の存続に関わる経営課題として、重要性が高まっています。
そこで今回は、5年後、10年後の未来のため、そして100年企業を目指すための人材開発・組織開発のポイントをご説明します。
「働きがい」「働きやすさ」は会社の成長・発展に大きく影響する
厚労省は、平成25年発表のレポートにおいて、従業員の「働きがい」や「働きやすさ」の意識を高めることは、従業員の「意欲」「定着」そして会社の「業績」の向上に効果があると明らかにしています。
普段会社で働いている皆様からすると、「働きがいがあるので、がんばりたいと思う」「働きやすい環境があれば、ずっとこの会社で働きたいと思う」さらに「いい仕事をする人が増えれば業績もあがる」これらのことは、当たり前の結果のように見えます。
その当たり前のこと、つまり働きがい、働きやすさの向上にどれくらい真摯に取り組んでいるでしょうか。日々の忙しさに追われ、どうしても後回しになってしまってはいないでしょうか。
出典:厚生労働省(2013).「職場の働きやすさ・働きがいに関するアンケート調査(従業員調査)」
日本の労働力人口は減少していくことが見えており、新卒社員が3年で3割辞めていくという時代です。その中で企業が成長していくには、人手不足の中でも人材を確保し、高い意欲で働き続けてもらい、一人ひとりの生産性を上げていかなければなりません。
また、若手社員の採用・定着が進まないと、社員の高齢化が進行します。そうなると「労働生産性が下がる」「職場の活気がなくなる」「新しいアイデアが生まれない」などの弊害が生じる可能性があります。
今こそ、働きがい、働きやすさを高め、従業員の能力やスキルを最大化させる人材開発、そしてチームとしてパワーを最大化させる組織開発に取り組む必要があるのです。
人材・組織開発に取り組むことで、会社を成長に導く
“人”や“組織”に関する課題を解決するためには、どのようなことに取り組めばいいのでしょうか。例として、次のようなことが挙げられます。
・企業理念、企業の存在意義(パーパス)を明確にする
・経営戦略と連動した人材戦略を策定・実行する
・従業員への積極的な発信・対話をする
など
企業理念、企業の存在意義(パーパス)を明確にする
自社が何のために存在しているのか、社会における存在意義を問い直し、改めて定義・明確化します。従業員にとっては「自社で働く意義」とも言えます。これを明確にすることによって、会社で働く一人一人が自分の担当する業務に誇りを持てるようになり、モチベーションの向上や自律性の促進が期待できます。
【事例1:アサヒグループホールディングス株式会社】
アサヒグループホールディングス株式会社では、欧州事業が加わったことで、事業利益及びグループ社員の海外比率がそれぞれ 40%、50%を超え、グループの事業基盤は構造的に大きく変化した。これを踏まえ、「グループが企業価値を持続的に高めていくためには、言語や習慣の違いを超えて、グループ共通の価値観や進むべき方向性を共有し、かつ実践していくことが極めて重要だ」と考え、新たなグループ経営理念を制定した。
【事例2:ソニー株式会社】
ソニー株式会社では、「自社が将来にわたって意義のある存在であり続けるためには、約 11 万人の全世界のグループ社員が長期視点で一丸となって新たな価値を生み出していくことが重要だ」と考えた。そこで、「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」というパーパスを定義。このパーパスを土台に経営の方向性や価値創造モデルを整理した。
出典:経済産業省(2020).「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」pp.18-19.
経営戦略と連動した人材戦略を策定・実行する
(1)目指すべき将来の姿とKPIを設定する
人材戦略のゴールである会社の目指すべき姿を設定します。これは、自社の企業理念や経営戦略に関連して設定します。また、これに対して定量的な KPI を設定することが重要です。
(2)現状の把握、将来の姿とのギャップを定量化する
設定した KPI について、現状を正確に把握し、目指すべき将来の姿とのギャップを定量化します。現状調査は、経営幹部や社員に向けたヒアリングやアンケート、人事データの分析を通して行います。
(3)ギャップを埋めるための人材戦略を策定・実行する
定量化したギャップ”を埋める人材戦略を策定・実行します。人材戦略を考える際には、どのようなスケジュールでアクションを行うのかについても明確にすることが必要です。また、目指す姿に到達するためには、目標からバックキャストして考えることが重要であり、現在の人事施策の積み上げにならないよう注意しましょう。
【事例1:株式会社日立製作所】
株式会社日立製作所では、グローバル化、デジタル化の中で新たな価値を創出するため、グループ・グローバル共通の人財マネジメント基盤の整備等、CHRO が主導しながら、経営戦略から重要な人材アジェンダを特定し、KPI を用いて変革を推進した。
【事例2:シーメンス】
シーメンス(Siemens)では、経営リーダーの育成に関する指標の1つとして、将来の幹部候補となる人材の部門間の流動性について KPI を設定し、経営陣で議論した。
出典:経済産業省(2020).「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」pp.20-21.
従業員への積極的な発信・対話をする
人は、ただ業務を命じたり、人材戦略の内容を通知したりするだけではなかなか動いてはくれません。そのため、従業員に対し、会社の存在意義や、会社が目指す将来の姿について、積極的に発信し、対話することが必要です。
特に、新型コロナウイルス感染症への対応の中では、会社が目指す方向性や自分のキャリアに対する不安、テレワークに伴う孤立を感じる従業員が多く存在しています。パーソル総合研究所の調査によると、テレワークにより何らかの不安感・孤独感を抱えている人は、解答者の64.3%にも上りました。
このような状況もあり、経営陣自ら、タウンホールミーティング(経営陣と従業員との対話の場)やオンラインでの取組を通じて、企業理念や存在意義、人材戦略を明確にした上で、従業員に発信することが求められます。
【事例1:中外製薬株式会社】
人財への考え方を含めた新たな中期経営計画について、役員が事業所を訪問して対話。また、対話の際にでてきた従業員からの意見について、統合報告書の中で発信した。
出典:経済産業省(2020).「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」pp.23.
失敗しやすい“ハードル”を越えることで、自社の未来が拓ける
ただし、実際の取り組みをするにあたっては“ハードル”があるのも事実です。たとえば、以下のような“つまずき”に直面する企業も少なくありません。そんなときは、以下の「成功へのアドバイス」を思い出し取り組んでみてください。
つまずき① 何から手をつけていいかわからず、取り組みを始められない
・離職対策、モチベーションアップ、適正評価、マネージャー育成… 課題が山積みで優先順位がつけられない。
・書籍やインターネット検索で自分なりに調べるが、いろんな解決策があり、自社に必要な取り組みが分からない。
【成功へのアドバイス】
まずは、社内の課題を「見える化」し、「何が問題か」を議論しましょう。その後、「今やるべきこと」に焦点を当て、取り組みを開始します。
つまずき② とりまとめる人がおらず、全体最適できていない
・会社全体の取り組みを管理する人がおらず、各担当者で取り組みが進んでいる。
・個々の取り組みをすること自体が目的になってしまっている。その結果、会社全体の目的が達成できない。
【成功へのアドバイス】
会社全体の取り組みを一つのプロジェクトとして、責任者がとりまとめを行いましょう。会社方針とずれることがあれば軌道修正を行います。
つまずき③ 社内から反対意見が出る
・今までのやり方を変えたくない人から反発が出る。
・受け入れられない人は退職してしまうこともある。
・特に、経営幹部に反対派の人がいると、経営方針が定まらない、実行が推進されない、社員に浸透しないといった影響が出る。
【成功へのアドバイス】
反対派が出るのはむしろ健全なことです。取り組みの結果を見せ、納得感を持ってもらいましょう。
つまずき④ 新たな取り組みが、会社に馴染まない
・人事系、タレントマネジメント系のシステムを入れたが、うまく活用できない。
・使っている人と使っていない人が出ており、全社で使い方がバラバラになっている。
・しばらくたつとほとんどの人が使っていない状況が生まれてしまう。
【成功へのアドバイス】
仕組み・ツールだけ入れても、社内の「適応課題」に対応できていません。社員意識や業務フローなど、「社員が壁に感じていること」を取り除いていくことが必要です。
働く人が輪になる総合人材開発サービス WA-ninaru(ワ~ニナル)
自社の人材や組織に関する課題を認識していても、リソース不足などが原因で解決に着手できていない中小企業が多いのが現状です。
そんなときは、必要に応じて外部ツールを利用するか、コンサルタントの力を借りてみましょう。外部のコンサルタント等を活用することにより、効率的な運用のアドバイスだけでなく、客観的な課題分析や他社事例を参考にすることができます。
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・コンサル&ツールで効率的・効果的な人材開発を行うことで、人材が育ちます
・組織の課題と目指す姿を見える化することで、組織がまとまります
・多忙な管理職をサポートすることで、マネジメントが充実します
人材・組織開発の取り組みは、一朝一夕では効果が出ません。管理職全員、会社全体が地道に努力しなければならない終わりのない取り組みです。それにも関わらず、一人で悩んでしまう経営者様、人事担当者様が非常に多いのが現状です。
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著者情報
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 取締役 人材開発コンサルタント
市丸 純子
2013年TOMAコンサルタンツグループ入社。現在はグループ内の長期ビジョン実現に向けた特別プロジェクトのマネージャーを務め、自社内の組織開発・人材開発に携わる。また、その経験を活かし、「100年企業を創る」をモットーに、多くの中小企業に向けて人材開発コンサルティングを提供している。