経営の資本の一つである「人」。その「人」の力は単純な足し算ではなく、10人の力が8になったり20になったりするのが会社という組織です。 DXの推進や社会の価値観が多様化しつつある今こそ、人の力、組織の力を最大化することを考える良い機会なのかもしれません。今回は、「人」そして、人を活かす「組織」を育てる具体策についてご紹介します。
組織に影響を及ぼす環境と社員数
人的資本経営への変革の必要性
上記は政府発表のレポートで、「人材は投資する“資本”と捉える人的資本経営への変革の必要性」についてのものです。働き方の多様化や従業員の意識の変化、今後の労働人口のさらなる減少など、企業を取り巻く環境が大きく変わりつつある現在、優秀な人材の確保・定着・育成は企業の大きな課題となっています。自社の組織は個々の人材の能力を引き出すことができているでしょうか。人の成長を、組織の成長を促せる組織でしょうか。
マネジメントにおける社員数の壁
組織を見直すもうひとつのタイミングが社員数の変化です。社員数による組織陣営の違いや難しさを表す「30人・50人・100人の壁」という言葉があります。さまざまな壁のうち、コミュニケーションの面では、30人以下なら経営者の目が届き、一人ひとりを把握して指導できます。
しかし、30人を超えるとそれができず、また入社時期や価値観なども多様化していくことで経営が立ち行かなくなってしまうという問題があります。社員数が増え「集団」から「組織」に変わるときが、トップダウンからボトムアップへの変化を考えるタイミングだといえます。
組織を育てる4つの具体策
成長企業、永続企業を目指すためには、ビジネスを成長させ、それを支える人を確保することが必要です。そして人を活かすのが組織です。「集団」から力を最大限に引き出す「組織」へと育てるための4つの具体策を詳しく紹介します。
(1)幹部の選出・育成
幹部を選出する際に気をつけたいのは、能力だけでは選ばないことです。会社の方針や経営理念、ビジョンに共感しているかどうかは重要な指標です。社員数が増え、価値観が多様になる中でも、幹部が会社の方針や経営理念を部下に浸透させることで、同じベクトルを持って仕事ができ組織として結果が生まれやすいでしょう。
育成の上では、スキルマップの活用が有効です。年次や職位ごとに求める具体的なスキルを配置します。OJTや管理職研修なども実施しながら、適切な人材を育成していきましょう。
(2)ノウハウの共有
営業力や企画力など、自社の強みとなるノウハウを一社員だけが持っている場合、その社員が辞めてしまうと会社としての強みが大きく削がれてしまうリスクがあります。そこで、誰もがそのノウハウを活かせるように共有することが必要です。共有化によって自社の“資産”になり、人材育成にも有効活用できます。共有する手段として、ノウハウをわかりやすくまとめたマニュアルを作成したり、スキルマップやクレド(行動指針)などで表すことが効果的です。
例えば、卸売業の場合は、仕入れの商品選びなどもノウハウと言えます。「センスがないとこの仕事はできない」と考えがちな業務はありませんか?どのような情報収集をしているか、お客様のどのような言葉からニーズを拾っているかなどを紐解いて言語化していくと再現性のあるノウハウとして蓄積することが可能です。
(3)社員を巻き込んだビジョン・クレドの作成とその浸透
会社として目指すビジョンや行動指針となるクレド。これらを社員と一緒に策定していくことも組織を育てるために役立ちます。ビジョンやクレドは、それに従って日々の業務を行う社員自身がしっかり“腹落ち”していることが重要です。だからこそ社員を巻き込んで策定することがポイントになります。その過程で理解・納得が自然に進み、浸透のスピードも上がります。
また作成したビジョンやクレドを根気強く、継続的に社内に浸透させるような活動も重要です。ビジョンやクレドが根付くことで日々の行動や思考が変化します。
(4)組織体制の変更
一人の管理職が大人数を見ることには限界があります。また、働き方や価値観が多様化する中で、組織規模が大きすぎると一人ひとりに合わせたマネジメントができない可能性があります。
そのような場合は、各セクションの人数を見直し、適切な管理ができる組織体制に変更しましょう。また、セクションごとに1on1を行う場合、一人の上司が面談を担当する部下は5~6人までを目安にセクション分けを行うと無理なく実施することができます。これにより「自分のことをきちんと見てくれる」と社員が感じて、モチベーションやエンゲージメント(自社への愛着)、社員満足度も高くなって、組織としての成長にもつながります。
より効果的に組織を育てるために
組織づくりを効果的に行うために、一番大切なことは「経営理念・ビジョンの共有と浸透」です。組織に属する社員のベクトルを合わせることが大きな力を生むからです。さらに、経営理念やビジョンが組織の土台にあることで、人事と経営戦略を結び付けて検討しやすくなります。これによりビジネスの成長に適した人事施策を行うことができます。
このことを踏まえて、今回ご紹介した具体策にぜひ取り組んでみてください。
また、中小企業の組織づくりで難しいのは、関連書籍なども大企業向けで参考となる例が見つけにくいところです。TOMAでは多くの中小企業の経営のお手伝いを行う中で培ったノウハウで、「経営理念・ビジョンの共有と浸透」をはじめ、人材開発・組織開発をトータルに支援するサービスなどが可能です。組織に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。TOMAの人材開発・組織開発サービスはこちらからご覧いただけます。
著者情報
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 取締役 人材開発コンサルタント
市丸 純子
2013年TOMAコンサルタンツグループ入社。現在はグループ内の長期ビジョン実現に向けた特別プロジェクトのマネージャーを務め、自社内の組織開発・人材開発に携わる。また、その経験を活かし、「100年企業を創る」をモットーに、多くの中小企業に向けて人材開発コンサルティングを提供している。