「企業は人なり」という言葉があるように、社員一人ひとりの意識や働き方が変わると会社全体が変わります。
社員のモチベーションを維持・向上させるために企業ができる働きかけとして、近年注目されているのがパーパス経営です。
社員が働きがいを持って行動するようになれば、売上が伸びる、離職率が下がるといった効果だけでなく、採用活動にも好影響を及ぼします。
では、果たしてパーパス経営とは何でしょうか。
ミッション・ビジョンとの違いといった基本的な知識から、パーパス経営のもたらすメリット、浸透方法や事例までを解説します。
パーパス経営とは何か
パーパス(=purpose)とは、直訳すると存在理由や存在意義、目標に向かう決意といった意味があります。
ビジネスにおけるパーパスとは「我々の企業は、社会の中で何のために存在しているのか」という問いに答えるものといえます。
そうした自社の存在意義を明確にした上で、一貫性のある経営を行うことをパーパス経営と呼びます。
企業の存在意義という響きは少し大仰な感じがするため、パーパス経営は世界的な大企業が行うものと考える経営者も少なくありません。しかし、地域社会に根差す中小企業や中堅企業にこそ、パーパス経営は効果を発揮する可能性があります。
パーパスとミッション・ビジョン・バリューの違い
パーパスとミッション・ビジョン・バリューはよく混同されがちですが、パーパスはミッション・ビジョン・バリューの土台となる考えであると認識してください。
・パーパス= 何のために存在しているか(Why:なぜそれをするのか)
・ミッション=我々は何者で・何をなすべきか(What:何をなすべきか)
・ビジョン=〇年後に実現したい姿(Where:どこにいくのか)
・バリュー=日々大切にしている行動(How:日々をどのように過ごすか)
それぞれの違いをしっかりと理解しておくと、ビジネスにおける各シーンで何を重視すべきかが見えてきます。
パーパスは企業を支える根本となる考えなので、拠点が全国各地に散らばっていたり、複数の事業を行っている場合でも、会社内で共有することが可能です。
パーパス経営が求められる理由、メリットとは
では、なぜパーパス経営を導入する企業が増えているのでしょうか。それには以下の理由やメリットがあるためです。
パーパスは社員の働きがいを生み出すことができる
社員のエンゲージメント(=会社への貢献度や理解度)が高い企業では、社長から管理職に、管理職から社員へとパーパスが伝えられています。
自分の勤めている会社の存在意義が、社員一人ひとりへ浸透すると、それが働きがいにつながります。
パーパスの策定により業績向上をめざす
会社のパーパスに共感した従業員は仕事における幸福度が上がり、業務においてもハイパフォーマーになることが明らかになっています。
また、仕事へのやりがいが高い企業では、離職率が低いことも知られています。
米ギャラップが世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合がわずか6パーセントという結果が出ています。
米国31パーセントと比較すると圧倒的に低く、調査した139カ国中132位と最下位クラスです。
見方を変えると、日本のビジネスシーンにおいて従業員のエンゲージメントが高い集団が作れれば、それだけで大きなアドバンテージとなりえます。
Z世代は企業のパーパスに強い関心がある
一般的に1990年代後半から2010年代に生まれたZ世代は、就職活動において、企業のパーパスに高い関心があることがわかっています。
『パーパスを通して、企業が事業を展開する目的を知りたい』
『企業が目指す方向性と、自身の関心が一致していると志望度が上がる』…etc
「パーパスを知ると志望度が上がる」と回答した学生は59.4パーセントと過半数の学生がパーパスを重視しているという結果が出ています。
パーパスの有無は採用活動にも大きく影響を与えているのが現状です。
ここまではパーパス経営のメリットを解説してきました。これまでの話をまとめると、
・社員のモチベーションが上がると売上が伸びる
・やりがいのある会社は離職率が低くなる
・Z世代の採用にも効果的
以上のように、パーパスを軸にした経営には多くのメリットがあります。
パーパスの策定
では、自社のパーパスを作るには、どのような流れで行えば良いのでしょうか。
まず、パーパスの作成には経営者、あるいは創業に関わった経営層が自社を振り返ることが基本です。創業当時の思いを確認しながら以下の点に留意しましょう。
・現在ある社会課題の解決につながるか
・自社の強みを生かせるか
・自社が実現できることか
・社員が自分事としてとらえられるか
一人で考えていると独りよがりになりやすく客観的な視点が保ちにくいため、社員を巻き込んで議論したり、専門家に協力を依頼するのも1つの手段です。
パーパス・ドリブンで経営に一貫性を
パーパスを経営の軸にすることをパーパス・ドリブンと呼びます。
社内外に対して一貫性のあるメッセージを発信するだけでなく、パーパスを軸とした一貫性のある戦略・施策を打つことで、効率的な企業成長が望めます。
パーパスを社員に浸透させる事例
パーパス経営のためには社員へ浸透が欠かせません。
パーパスを組織に浸透させるためには、組織のメンバー(社員)が『認知・理解』『行動』『再認・反復行動』の3つのステップを踏むことが大切です。それぞれのステップにおける事例を紹介します。
パーパスの「認知」を促すための事例
社外に向けた「アウターブランディング」、社内に向けた「インナーブランディング」どちらの施策も重要です。
ポイントは、トップメッセージである旨を明確にし、本気度を示すことです。社外へ向けたアピール方法としては会社のコーポレートサイトでの訴求が有効です。
社内向けにはブランドブックを作成して社員に配布したり、朝礼や会議などを通じて社員が日常的に意識できる環境を整備すると良いでしょう。
パーパスの「理解」を促すための事例
会社にパーパスがあることを知っていても、本当の意味で理解をしてもらうための施策が必要です。パーパスについて深く考える機会となる、ワークショップを実施するのがおすすめです。
・社長からワークショップの目的を共有する
・社会/顧客/社員への貢献を確認する
・現状の課題を確認する
以上のことを行うと良いでしょう。
ワークショップでは、部署や年代が異なる社員でグループを作るのがポイントです。
パーパスの「行動・再認・反復行動」を促すための事例
最後に、パーパスを社内に浸透させるための行動、再認・反復行動を促す施策です。
パーパス1on1を実施する
上司と部下で1対1の面談を実施し、個人パーパスの作成や会社パーパスとの関連性を確認します。パーパス1on1は定期的に開き、取り組みに対する進捗の確認を行うことが大切です。
プロジェクトチームを発足する
社内で5~7名のプロジェクトチームを立ち上げるのも効果的です。
部門や年代はあえてバラバラに選任し、パーパスを浸透させるための取り組みやパーパスを軸とした新たな取り組みの提案や実行を推進します。
パーパスを基にした行動指針を作成する
パーパスに基づき、「一人ひとりに求める具体的な行動・思考」を示した指針を作成し、業務中は常にパーパスを意識させるようにします。
サンクスカード(パーパスカード)、表彰制度を取り入れる
パーパスに準じた行動をしたり、成果を上げた社員を讃え合ったり、表彰をする制度を採用するのも一つの手段です。社員のモチベーションアップにつながるだけでなく、パーパスの浸透にも役立ちます。
提案プロジェクトを実施する
パーパスを軸にした新たな取り組みに関して社員から提案を募る施策です。今の会社の現状を鑑みてどんな施策をすれば良いかを社員自ら考えることでパーパスの浸透を促進します。
また、提案が採用されると参画意識が高まり、パーパスを自分事として捉えられるようになります。
人事評価に組み入れる
パーパスを元に作成した行動指針を人事評価に取り入れるのも手段の一つです。パーパスに準じた行動を評価に取り入れることで、社員への浸透を図ることができます。
パーパス経営にご関心のある方、ぜひ一度T O M Aにご相談ください
T O M Aでは、パーパスに関するコンサルティングサービスを提供しています。
パーパスの策定から社員への浸透まで、トータルでサポートすることができるので、気になる方は、ぜひこちらからご相談ください。
また、TOMAでは定期的に人材開発・組織開発に関するメールマガジンを配信しております。こちらもぜひご登録ください。
著者情報
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 取締役 人材開発コンサルタント
市丸 純子
2013年TOMAコンサルタンツグループ入社。現在はグループ内の長期ビジョン実現に向けた特別プロジェクトのマネージャーを務め、自社内の組織開発・人材開発に携わる。また、その経験を活かし、「100年企業を創る」をモットーに、多くの中小企業に向けて人材開発コンサルティングを提供している。