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会計不正の事例紹介 その6(監査人の交代)

記事作成日2018/10/02 最終更新日2018/10/02

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会社は、再生可能エネルギー事業及び省エネルギー事業、省エネルギー事業関連製品製造・販売を行っています。平成30年2月に外部から指摘を受け、会計不正の可能性を認識し、外部専門家を含む社内調査委員会を設置して調査を開始しました。社内調査委員会から過年度の不適切な会計処理の可能性の報告を受け、5月に後を引き継ぐ形で第三者委員会を設置して全容解明に取り組むこととなり、7月に第三者委員会の調査報告書が公表された事例となります。
調査報告書に「疑義が払拭できない案件が残っており、今後の会社による実態解明が期待されること、及びこれを通じて更に不適切と認定される案件が存在する可能性がある」と付言、その後の対応として、第三者委員会は会社側に追加解明を求めました。会社は監査人の協力を得て追加解明を行い、法定提出期限の経過後1ヶ月を超えた8月10日に、平成30年3月期有価証券報告書及び過年度の有価証券報告書等の訂正報告書を提出しました。

事例の紹介

(不正調査の範囲)
・アンケートの実施及びホットラインの設置から、①不適切な売上、②案件間の原価付替、③不適切な資産評価の3項目に大別して調査を実施。特に、工事進行基準が適用されている取引を抽出して取引内容を検討

(工事進行基準の誤適用の疑義)
・工事進行基準の適用は、請負工事が前提で、会社の工事進行基準の適用対象に疑義あり

・会社の工事態様には、請負型と開発型の2種あり。開発型は、販売先が確定しておらず、工事収益総額に信頼性がなく、工事進行基準の適用対象とすることに疑義があった可能性あり。また、開発型は土地の取得費等を原価に含めて工事進行基準の対象とするため、土地は工事の初期段階に取得し比較的多額となる。結果として、工事の初期段階で工事原価が積み上がり、売上の早期計上が可能

・工事進捗度の水増しや架空販売等の検出も発覚しており、工事進行基準適用の前提となる工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度の3要素の見積りに疑義のある案件あり

(その他)
・原価付替の検出。資金繰りが厳しいことを理由に、権利譲渡契約の譲渡金額をゼロであるかのように仮装し、別の取引時に簿外費用となっている金額を上乗せして支払う旨の提案を行い実行。結果、未成工事支出金の過少で問題あり

(背景と動機)
・平成26年3月期時点で、過去5年連続で赤字を計上。無配を継続しており、恒常的に非常に厳しい業績、非常に厳しい資金繰り状況が継続。その中で資金調達を控え、より多額の資金調達を実現するため、平成26年3月期の決算を黒字化し、株価をできるだけ上げておく必要があることを強く認識

・継続企業の前提に関する重要な不確実性の解消の必要性。平成27年3月期、営業損失、当期純損失、マイナスの営業キャッシュフローを計上、同期に継続企業の前提に関する注記を記載。記載解消を図るうえで、利益を確保し決算を黒字化しなければならないとする意識が一層強化

・黒字転換を可及的速やかに実現しなければという心理から、原価付替や架空売上計上はやむなしとする判断やグループ役職員の不適切行為を許容する動機が存在

(コンプライアンス体制の不備)
・経理体制の不備。組織改編により担当役員、管理本部長及び経営管理部長が同一人物となり、経理・会計に関する監視・牽制機能の確保なし。加えて、社内規程の不備及び不適切な運用

・出身元会社が異なることに起因する役職員相互間のコミュニケーションの少なさ、一部の者だけに顧客が帰属することによる情報共有の著しい欠如等からくる役員・従業員間における牽制機能の欠如

事例から学ぶこと

不正の3要素(動機・プレッシャー、機会、姿勢・正当化)が整っている状況が存在していたと考えられることから、監査人の対応が気になり監査人の交代を確認しました。最初の不正があったと考えられる当時の監査人は、平成27年6月の株主総会で任期満了により退任しております。その後に就任した監査人は、平成30年5月の不適切な会計処理が明らかになった際に辞任しております。

現在就任している監査人は、過年度の訂正監査を含め、平成30年3月期の監査を担当しております。訂正監査は、その当時担当した監査人の関与はなく、直近に就任した監査人が対応しており、厳しい案件であったと考えられます。

平成27年の監査人交代の理由には、不適切な会計処理の可能性の説明はありませんが、平成30年の監査人交代の理由には、不適切な会計処理の可能性の説明があります。今考えてみると、平成27年の監査人交代の際の監査人の交代の説明は、十分であったか疑問に感じるところです。

工事進行基準の適用対象について、監査人として正しい理解がされていたか気になりました。請負工事の対象となる範囲について、適用の際に会社と監査人との間で、どのような議論がなされ、どのような検証を監査人は行うこととしたかは気になるところです。工事進行基準はもともと見積り要素が多いため、その適用は、慎重すぎるくらいの対応が必要であったが、十分ではなかった可能性があったのではと思われます。

最後に

監査の過程で発見できなかったのかという思いが残る事例でした。監査人が交代し、後任監査人は平成28年の内部統制の仕組みに問題がないわけではないとの認識を持っていたが、前任監査人から問題があるとの説明を受けておらず、後任監査人が判断する段階では会計上の問題は生じていなかったことから、後任監査人は、要改善事項の監査役への報告にとどめ、引き続き適正意見を表明しています。平成29年の内部統制評価では、不備の改善は見られ最低限の水準はあったとして評価されています。調査報告書を見る限り、不正が行われる要素があったと考えられることから、監査人が疑問と考えることはなかったのかは気になりました。監査人交代の手続も厳しくなっており、任期満了だけではないのではという疑問です。既に不正が行われており、気になるところです。

前任監査人が適正と認めていて、会計上の問題が生じていないから前任監査人と同様の判断をしたとされており、手続的には十分でなかった可能性があると思われます。監査人として確認できた客観的事実から、問題の有無を判断することが必要であり、疑問に感じることがあれば、会社としっかり向き合うことが必要であったと考えられます。現在のように実施すべき監査手続が多くある中では、時間的な制約から証拠の収集は困難な場合もあると考えられます。職業的専門家として十分かつ適切な監査証拠の入手が求められていることを思い起こしてください。前任がどう判断していたかではなく、その状況についてどのような理由から、どのように説明するかを考えることが必要です。

現在携っている業務で、あっと感じられるようなことがある方はもちろん、ない方でも話しを聞いてみたい、相談してみたいと思われる方は、TOMA監査法人までご連絡ください。

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