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会計不正の事例紹介 その8 (誰も関連当事者取引に気づかなかったの?)

記事作成日2018/11/26 最終更新日2020/06/22

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会社は、主に和服の販売仲介を行っている業界大手企業で、全国で無料のきもの着付け教室を展開しています。東証の市場の指定替えの審査の過程で、関連当事者取引の開示もれ(承認もれ)が発覚しました。東証の審査で指摘されるまで関連当事者取引について、関係者間で誰も気づかなかったかのでしょうか。このような事例は意外にあるのではと考え選びました。今回は事例の紹介に重点をおくことにして、概要を少し詳細に説明しています。また、読者に考えて欲しいことから、特別調査委員会が示した発生原因と再発防止策を紹介することとしました。
なお、会社は、関連当事者取引に関して「内部管理体制の見直しが必要」との理由から、既に提出されていた上場市場の指定替え申請を取り下げています。

事例の紹介

(概要)
・関連当事者となる会長兼社長(以下「会長」)の個人保有のクルーザーの維持費、ロールスロイスの維持費、及び社宅の転居代金、居宅として利用した代金、これらを合計した約1億1000万円を会社の資金から拠出(役員社宅として認められる費用を除く約6千万円が個人返金要求対象)

・2名の取締役(関連当事者に該当、うち1名は管理本部長)の転居(仙台、大阪から東京に転居)代金など合計約13百万円を会社が負担(役員社宅として認められる費用を除く7百万円弱が個人返金要求対象)

・社長とその親族が一定数の株式を持つ企業(親族企業、関連当事者に該当)と取引する際に、親族企業が負担すべき費用(役員立替家賃、派遣従業員給与等)18百万円弱を会社が負担(会社負担とすることに合理的理由があると認められる費用を除く約6百万円が返金要求対象)

・ただし、会社負担に合理的理由があるものも、現在取締役会の承認手続はないので今後の承認を前提

(発覚の経緯・特別調査委員会の設置)
・東京証券取引所市場一部への指定申請を開始。その審査過程において、株式会社東京証券取引所(以下「東証」)から、関連当事者取引に関する問題点・不備の指摘あり

・会社は、この事態を重く受け止め、関連当事者取引を行うに至った経緯やその内容、また関連当事者取引の管理が不十分だった原因等の調査を行うこととし、客観的かつ中立的な調査を実施するために、会社関係者と利害関係のない外部の弁護士、及び社外役員で構成される特別調査委員会(以下「委員会」)を設置

(会社対応の主な問題点)
・クルーザーやロールスロイスは、いずれも主に会社の業務目的に利用されていたことから、これらの維持費用について、会社が負担しても問題ないと管理本部長は判断。その判断をする際に、会社が負担する維持費用は、クルーザーやロールスロイスの業務利用の対価として見合うものなのかを考慮する必要があったが、その視点は欠落

・役員社宅については、会長社宅の費用負担が不透明な形で漠然と継続。取締役会の承認を経た役員社宅管理規程の条件とは全く異なる例外的な取扱いを実施していたが、例外扱いの取締役会への上程はなく、公私の区別なし

・役員以外の関連当事者との取引について、関係者に作成を依頼する「関連当事者との取引調査票」(以下「調査票」)の記載が十分でなかったことから開示もれが発生。前年の調査票の記載と当年の調査票の記載が異なっていたという事実も判明しており、その管理は杜撰な状況

・関連当事者に当たる会社に対する債権を事実上放棄すること自体が、利益相反取引・関連当事者取引に該当。会社にとって不利益な処理であることは一目瞭然にもかかわらず、取締役会への上程なし

・上場企業である会社が、会長個人の会社を支援することが、その費用対効果含めて適切と言えるか、株主その他ステークホルダーから、どのように受け止められるのか、といった点に関する認識が不十分(甘い)


(発生原因)
・委員会は次の2点を原因と判断。会長及び管理本部長を日常的に監視監督すべき常勤役員についても、利益相反取引・関連当事者取引に関する理解・認識が不十分であり、責任は軽くない

・会長及び管理本部長を中心とした管理部門の責任者が関連当事者取引の問題性を十分に理解・認識しておらず、公私の区別なし。その結果、関連当事者取引の存在を適切に把握する仕組みや関連当事者取引を牽制する仕組みなし(内部管理体制の問題)。委員会は、会長及び管理本部長ともに、利益相反取引・関連当事者取引を理解していたとは考えられないと判断

・会長の一存で物事が決定されることが多く、支払に関しては、会長と管理本部長との間で様々な処理が恣意的に決定。また、会長や会長の保有する会社の財政事情が考慮されるなど、公私の区別がついているとは言えない状況。結果、取締役会で議論すべき事項が取締役会に上程されない事態につながり、さらには、社外役員による牽制が十分に働かない状況を醸成(恣意的かつ不透明な意思決定の常態化)


(再発防止策)

委員会から次の3点を指示

・企業理念に掲げる内容に照らして、今回発覚した公私混同は、ステークホルダー(消費者、生産者、取引先、株主、社員)に対する裏切りであり、社会的責任の自覚を欠如。内部管理体制の強化や意思決定プロセスの改善を図ったところで無意味。まずは役員の意識改革が必要

・利益相反取引・関連当事者取引に対する正確な知識を共有化し、経営トップが自らの責任で、内部管理体制に係る抜本的な改善策・強化策を講じることが必要不可欠

・会長を中心とする恣意的な意思決定の横行が、この案件の真因。取締役会、特に社外役員に対する適時かつ十分な情報提供を初めとする、経営トップに対する牽制が十分に担保されるガバナンス体制の再構築が必須

事例から学ぶこと

関連当事者として取り扱うべき事項が、東京証券取引所市場一部への指定申請を行った際の審査過程で照会されるまで、なぜ気づけなかったのかという点は気になりました。

指摘を受けた内容は、調査報告書を読むと多くの方が、関連当事者取引に当たると考えられる事例ではなかったでしょうか。調査報告書では、会社の体質に問題があったことが明示されています。

 

最後に

オーナー経営の会社では、意外とこのようなことがあってもおかしくないのではと考えられます。利益相反取引・関連当事者取引は、過去から問題として指摘されてきており、それなりに対応されてきていると考えていましたが、依然として問題はあり、会社にはしっかりと理解してもらっておかないといけない事項と再認識しました。

利益相反取引・関連当事者取引の把握の不備は、内部管理体制の見直しにつながっていきます。今一度、関連当事者取引を整理される、あるいは考えられてはいかかでしょうか。

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