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会計不正の事例紹介 その1(不適切な在庫の評価・在庫の操作、不適切な子会社の売上計上)

記事作成日2018/04/24 最終更新日2021/08/06

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はじめに

これからTOMA監査法人としてのブログを発信していきます。どうぞよろしくお願します。
さて、新聞の特集(3月上旬)で「公約なので、ありとあらゆる手段を使って黒字化するように」と発言して部下を叱責し、会社ぐるみで不適切な対応をしたという記事を再び目にしました。皆様に関心がありそうなテーマとして、会計不正の事例説明を取りあげていきます。
最後に事例から学ぶこととして、ポイントを整理していますので、最後までお読みください。

なぜ会計不正か

新聞等で大々的にでるのは少ないですが、会計不正は確実に発生しています。東京商工リサーチのデータによれば、上場会社の不適切会計の開示件数は2015年53件、2016年58件となっています。

正義感(あるいは恨み?)から疑問に思う人たちが内部通報した、会計監査人が疑問を提起した、内部監査で疑問に気づいた等、不正に気づいた原因はいろいろあります。確実に言えるのは、何らかの形で必ず会計処理が行われます。どんな事案でもどこかの場面で会計帳簿にのせること(会計処理)が必要です。

変な会計処理であれば、なぜこのような処理なのか、なぜ?なぜ?と問いつめられます。その結果、考えられないような事実がでてくる場合があります。早く気付くことができれば、会社も早々にやめるのではないでしょうか。疑問に思う前提として不正事例の内容を知っておくことは有効です。

過去の発生事例を紐解くことで、問題解決のヒントを皆様と共有していければと考えております。それでは今回の事例を紹介しますので、ご確認ください。

事例の紹介

2018年3月13日に公表された上場会社の調査報告書の事例

内部監査で棚卸資産の評価に疑義があることが判明。そこで社内調査を始めたら、中国の子会社の売上に疑義があることも判明。また、棚卸資産の問題から実地棚卸の確認を強化したら、在庫について帳簿数量と実地数量との間の不一致を確認

内容

今回の事例では、次の3つの不適切な行為が確認されました。

1.長期滞留在庫の棚卸資産評価の運用に係る不適切行為
2.棚卸差異を避けるための不適切な在庫操作
3.中国子会社の売上計上についての不適切な処理

1.長期滞留在庫の棚卸資産評価の運用に係る不適切行為

(背景・発生原因)
・評価損の計上手続を簡便化するために、営業循環基準から外れたもの(期中1個の移動もなかったもの)を対象として評価損を計上するよう会計基準を変更(会計監査人への相談あり)
・会計基準の変更は会計監査人に相談しているが、1個の移動の考え方について会計監査人から質問されなかったことを理由に、会社側で都合よく判断(解釈)。また、会計監査人も「ものの移動」について明示的に確認しておらず、会社システムによる移動の把握について、双方での確認が不十分

(実際の対応)
変更後の基準では、販売していなくても1個の廃棄や1個の保管場所の変更も移動に該当し、評価損の計上は不要。また、この方法によると事前に評価損の金額見積もりができることから、評価損金額に調整する目的で保管場所の変更を行い(指示し)、評価損を回避するような事態も発生

(発見の経緯)
内部監査で長期滞留在庫の棚卸資産評価について疑義を発見

(疑問点)
会計監査人としてデータ管理を含めた運用確認ができていれば回避できた可能性あり。会計監査人と会社との確認がなぜ不十分となったかが疑問

2.棚卸差異を避けるための不適切な在庫操作

(背景・発生原因)
実棚在庫数量が会計帳簿上の在庫数量を大幅に下回る状況(多額の棚卸差異)が発生

(実際の対応)
継続的に実棚数量を増やして在庫を過大に計上(棚卸差異を理論在庫金額の概ね3%から5%の範囲内に収めるために改ざんを長期間実施)

(発見の経緯)
長期滞留在庫の棚卸資産評価で不適切な行為を把握したため、会計監査人は、実地棚卸の確認を各事業年度末から第3四半期に変更したうえで全工場を対象にサンプル数を増やし、在庫数量の不一致の事実を発見

(疑問点)
改ざんは長期間継続されており、実地棚卸のやり方に問題があった可能性あり。棚卸差異の発生は常態化しており、棚卸差異の発生原因等の確認が過去に検討等されなかったかが疑問

3.中国子会社の売上計上についての不適切な処理

(背景・発生原因)
中国子会社で売上計上ミスが頻発、親会社からの叱責が続いていたところに、子会社の売掛金残高が客先に請求可能な売掛金残高に比して過大に計上されていた事実が判明。また、過年度からの誤りに対し、親会社監査室が経営問題として取り上げる状況で、子会社判断で毎月のデータから一定の売上金額を過少に計上

(実際の対応)
一定金額の減額は、最終的な単価確定後の精算処理の意図的な前倒しに相当。また、親会社の子会社に対する管理体制が不十分で、子会社が抱えているマンパワー不足の理解が不十分

(発見の経緯)
社内調査の過程で売上計上について疑義を把握

(疑問点)
中国子会社特有の状況をどこまで親会社が把握していたか不明。中国子会社内の意思疎通の不足も重なり、2年から3年超にわたる積み上げで差異が発生。過年度からの対応を含め、必要な管理体制の構築ができていなかったかが疑問

事例から学ぶこと

・棚卸資産・売上は、会計不正を起こす理由があると考えられる項目であること
・会計監査人は被監査会社との間で十分にコミュニケーションを行い、会社の状況を相互に協力して確認していくことが、問題事項を適時に把握するうえでは重要であり、次の3点に注意すること

(1) 会計処理の変更の際には、会計監査人は会社のデータ把握の仕方等について、会社の説明を十分に確認し、例外処理の有無を確認する。
(2) 監査手続(実地棚卸)について、時期を変えて対応する、あるいは従来とは異なった手続を行う等、相手に予測させない手続をたまに実施する。
(3) 親会社として子会社を管理する際には、子会社の置かれている状況の特殊性や起こっている問題の発生原因を把握したうえで、必要な管理体制がとられているかを確認する。

最後に、現在携われている業務で、あっと感じられるようなことがある方はもちろん、ない方でも話しを聞いてみたい、相談してみたいと思われる方は、TOMA監査法人までご連絡ください。

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