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会計不正の事例紹介 その9 (経理の権限が一人に集中している状態を危ないと感じなかったの?)

記事作成日2018/12/21 最終更新日2020/06/19

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今回は、平成29年に発覚した不正となりますが、現金の横領に係るわかりやすい事例をとりあげます。会社は、ジャスダック上場企業で、ジュエリーの製造・販売を主たる事業としております。東京国税局の調査開始日に国税局担当者より、多額の現金横領の示唆を受けて調査、会計不正が発覚しています。
経理課責任者による多額の横領という典型的な不正の事例となっています。調査報告書を読む限り、誰も疑問に思うことなく、なぜここまでの横領となったのか、不思議に感じる案件です。

事例の紹介

不正行為実施者(以下「実施者」)は、大学院修士課程終了により税理士試験2科目を免除され、入社時点で1科目に合格。税理士事務所、会計事務所での勤務を経て、会社の経理課に入社
会社の経理体制の不備に気付き、入社から7ヶ月後に不正を実施。会社が不正に気付かない中で以後、経理の管理者の不在や実施者の担当業務が拡大するにつれ、不正は拡大

(不正行為開始の経緯)
・実施者は、入社の約7ヶ月後の平成22年9月に、会社のオンラインバンキングシステムのうち旧式のシステムを使用し、自らの口座に会社の預金を送金し着服。入社時点で銀行のカードローン等の債務があり、会社の経理体制の不備を認識、横領行為を行っても発覚しないだろうと考えて不正を実施。会社のシステムは、送金への承認者を設定できない即時送金のシステムで、問題あり

(不正行為の拡大)
・会社の経理体制の不備をよいことに、実施者は不正行為を拡大。また、管理者の不在や実施者が経理課責任者になっていく過程で、不正行為はどんどん拡大

・不正の手口と金額は以下のとおり(最終的に4億円強の不正を認定)
ア.オンライン決済を悪用した実施者自身の口座への送金(送金回数は25回で約13百万円を不正)
(総合振込票では、当座預金照合表に振込先が印字されないことを悪用)
イ.上司から請求書等のために印鑑を借りた際に、不正に払出伝票に押印(不正回数は64回で約2億19百万円を不正)
(印鑑を借り出した際に、実施者が自ら取り寄せた白紙の払戻請求書に捺印。その払戻請求書を銀行窓口へ持ち込み、現金を引出し着服。隠蔽のため、材料費を過大計上することで帳簿残高(買掛金××預金××)を修正)
ウ. 本来は廃棄すべき銀行口座のキャッシュカードを悪用して不正出金(出金回数は152回で約1億51百万円を不正)
(会社の東京銀座営業所の閉鎖に伴い、営業所から郵送を受けた普通預金通帳とキャッシュカードを解約せず、更なる着服のために利用。通帳は廃棄するも、キャッシュカードを不正に利用。また、隠蔽のため、材料費を過大計上。さらに、材料費の過大計上継続に伴う損失の過大計上を意識し、業績予測に合わせるべく在庫(主に金)のグラム数を過大に計上)
エ. 現金売上の着服、及び現金で回収された売掛金債権の着服(3回で約18百万円を不正)
(現金回収された売掛金の一部を2回、実際には入金されていない現金を、帳簿上普通預金への入金として仮装。展示即売会(ジュエリーフェア)の際の売上高及び残存釣銭用現金の一部を着服。展示即売会後の金庫内現金を実施者が、金融機関に持参し口座入金することで不正を実施)

(回収見込み)
(今回不正の特徴。回収のため、実施者の不動産・動産を早期に確保することに注力)
・横領した金銭で取得した10件の不動産に係る評価額は約1億92百万円、また、換価可能な動産について総額で約32百万円の換価を実施し、合わせて約2億4千万円の回収を見込み

(発覚の経緯・内部調査委員会の設置)
・東京国税局の調査を契機として発覚。多額の現金横領の事実の示唆を受け、直ちに社内調査を実施。実施者は会社から横領した金銭による、不動産の購入、自動車、自動二輪車、多数の高級時計等の購入が判明。また、預貯金、金融資産(有価証券等)として残存している蓋然性を確認

・実施者の財産隠匿の危険を回避し、可及的速やかに回収可能な資産を回収するとして、顧問弁護士事務所弁護士、顧問税理士法人に所属する公認会計士をメンバーとする内部調査委員会を設置

(発生原因・会社対応の主な問題点)
・代表者だけでなく役員等の管理に問題があったと考えられるものの、代表者が経理の責任者であったことから、次のような問題あり
ア.代表者は多くの部長を兼任し、営業部門、製造部門、開発部門に多くの時間が割かれており、管理部門への対応なし
イ.金・プラチナなどの地金は少量でも非常に価値があるため、厳密な在庫管理をすべく資金と労力を投入するも、財務・経理は、地金管理ほど厳密なシステムの構築は不要で、通常の管理体制を整えていれば不正行為は発生しないとの認識あり
ウ.実施者に経理業務が集中していたことの認識はあった。監査法人からは実施者に業務が集中するために決算作業に遅延が生じるとの指摘は受けていたが、不正リスクへの言及がなかったことから、不正リスクは高くないとの認識あり。また、経理の職務分掌、ダブルチェック体制が不十分であるとの認識なし

(再発防止策)

・資金日報の強化。資金日報と現預金を日次で突合し、入出金、現預金残高を確認し、現預金が会計帳簿と一致するまで、当日の業務を継続

・新たなシステムの導入。これまでの経理システムと基幹システムを照合し、万一齟齬が生じた場合には直ちに原因を究明できるような仕組みを採用するべく積極的に推進

・人事異動の工夫。部門間にまたがっての定期的な人事異動を実施し、業務の属人化、特定個人への集中を回避。万一不正が行われた場合でも早期に発見できるような体制の整備を検討

事例から学ぶこと

実施者が経理課責任者となり、同人の上司が社長しかいなくなると、従前の業務フローが遂行されなくなり、経理課員相互の監視、牽制が働かなくなっています。実施者の行動が制約されることも少なくなり、横領行為が長期に渡り継続し、被害金額も拡大しています。人を見る目がなかったといえば、それまででしょうが、経理に関しては甘い会社であったと思わざるを得ません。CFOを雇ったものの、わずか4か月で退職されており、会社として経理部署をどのように考えられていたのかは非常に気になりました。

材料費を過大計上することで不正が行われていますが、製造の観点から、不正に気付く糸口がなかったのか、疑問に感じました。本来黒字となってもおかしくない状況が存在するのに、なぜ赤字なのかと疑問を抱くような感覚を持つ人が製造部署にいてもよかったのではと感じます。

最後に

実施者はかなり大胆に会社資金を横領するという行為を行っていたににかかわらず、不正が発覚するまでに、実に7年もかかっています。調査報告書を読む限り、管理体制が従来よりも確実に悪くなっているのに、誰もそのことに疑問を感じていないことは驚きでした。実施者がどのようなことをできるか把握されておらず、経理責任者が行えるような権限を有していることに気付かれていなかったということで、どうしようもなかったと感じました。

人の問題が大きいとは思いますが、公開会社として経理に係る管理体制に相当な問題があったと考えざるを得ない事実に愕然としました。

現在携っている業務で、あっと感じられるようなことがある方はもちろん、ない方でも話しを聞いてみたい、相談してみたいと思われる方は、TOMA監査法人までご連絡ください。

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