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自社株式を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置の創設について

記事作成日2018/03/02 最終更新日2018/05/21

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平成30年度税制改正により、自社株式を対価とした企業買収が実行しやすくなります。

自社株式を対価とした買収の問題点

買収会社(以下A社)が買収対象会社(以下B社)からB社株式を取得する際、B社株主にはB社株式を譲渡したことによる譲渡所得が発生します。発生した譲渡所得には法人の場合は法人税、個人の場合は所得税が課税されてしまうため、B社株主は納税資金の確保が必要となります。しかし、B社株式の譲渡対価として現金を受け入れていれば、手元資金に余裕がありますが、現金ではなくA社株式(A社の自社株式)を譲渡対価として取得した場合は、手元資金が不足する場合があります。そのため、取得したA社株式を売却して資金を確保する可能性が考えられますが、B社株主がA社株式を売却することによるA社株式の株価の下落は、A社にとって好ましくありません。以上の理由により、自社株式を対価とする取引は理論上可能ではありますが、実行は避けられてきました。

自社株式を対価とした買収のメリット

買収の際に自社株式を対価とすることには、以下のようなメリットもあります。

  1. 資金に余裕がない新興企業等でも買収が行いやすくなるため、M&Aが活発化される。
  2. 資金調達に制約がある場合でも買収が可能になる。
  3. 買収に本来必要であった現金を設備投資や人件費等に回せる。
  4. 売り手の株主が買い手の株主となるため、買収後も売り手がM&Aによるシナジーを享受することができる。

そのため、株式譲渡による課税負担がなければ自社株式を対価とした企業買収のニーズはあり、実際に欧米では一般的になっています。

今回の改正内容

平成30年度税制改正により、B社株主に発生する株式譲渡所得に対する課税を将来に繰り延べることができます。

具体的には、B社株主は、B社株式の取得価額をA社株式に引き継ぐことができるため、買収時点では株式譲渡益は発生しないことになります。後日、実際にA社株式を売却し、譲渡益が発生した時点で初めて納税が発生します。
ただし、この課税の繰り延べをするためには、A社は事前に事業再編の計画について主務大臣の認定を受ける必要があります。
これにより、A社株主にとってはA社株価下落リスクへの懸念がなくなり、B社株主は納税資金の確保が不要になるため、自社株式を対価とした事業再編へのハードルが低くなることが期待されます。

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