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事業承継の現状と課題

記事作成日2021/11/12 最終更新日2023/06/13

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会社を長く続けていくうえで避けては通れない事業承継。その現状や課題には一体どのようなものがあるのでしょうか。この記事では課題が解決できなかった場合や、事業承継が進まない理由、解決に向けての方策についてもご紹介していきます。

■事業承継の現状

近年の事業承継に関する現状はどのようになっているのでしょうか。中小企業庁「2021年版 中小企業白書」から読み解いていきます。

◇企業数の減少

中小企業数は全体で2009年から2016年にかけて約63万社減少しています。前述の7年間で小規模企業数は約62万社(約17%)、中規模企業数は約1万社(約2%)減少しています。中小企業数の推移

◇中小企業経営者の年齢は分散してきた

ここ20年間で、経営者年齢の最も多い層は「50~54歳」から「60~64歳」「65~69歳」「70~74歳」に分散しています。また、70歳以上の中小企業経営者の割合は年々高まっており、経営者年齢の上昇に伴い事業承継を行った企業と行っていない企業とで両極化していることが窺えます。年代別の中小企業経営者年齢分布

◇親族外承継の増大

親族内承継(同族承継)の割合は2018年から2020年にかけて減少しており、2020年においては34.2%となっています。また、従業員や社外の第三者といった親族外承継の割合が年々増加しており、中でも従業員の内部昇格による親族外承継の割合は、親族内承継(同族承継)とほぼ等しい34.1%となっています。事業承継した経営者の就任経緯

◇休廃業・解散企業件数が過去最大

2020年における休廃業・解散件数は、調査開始以降最多となる4万9698件となっています。また、近年の経営者の平均年齢は上昇傾向にあり、休廃業・解散件数の増加の背景には経営者の高齢化が一因になっていると考えられます。休廃業・解散件数と経営者平均年齢

■課題を解決できないとどうなるのか

中小企業経営者の高齢化と、事業承継対策が進んでいないという課題が見えてきました。では、これらの課題が解決できないとどうなってしまうのでしょうか。

◇日本経済の縮小

日本経済の大部分を占める中小企業数がこのまま減少していくと、日本経済全体も縮小していくおそれがあります。なお、休廃業・解散件数と経営者平均年齢は共に上昇傾向にあり、ますます事業承継対策が必要といえます。

◇雇用や技術・ノウハウの喪失

休廃業や解散をしてしまえば、これまでに会社が維持している雇用や技術、ノウハウが失われてしまう可能性が高く、日本全体の生産性が下がるといえるでしょう。また、代表者個人の連帯保証によって、個人財産を差し押さえられるおそれもあります。

■事業承継が進まない理由

近年、非上場会社が抱える事業承継問題は、いくつものリスクが絡んでおり、複雑で深刻なものになっています。事業承継が進まない理由として具体的には主に以下の要因が関係していることが考えられます。

◇後継者の不在

2020年における経営者年齢別の後継者不在率は、60代では48.2%、70代では38.6%、80代では31.8%と経営者の年齢が高い企業においても後継者が不在の企業が一定数あります。

◇相続問題(高価な株価、株式の分散リスク)

自社株の評価額が高いほど、その取得に際して買い取り資金が必要になると共に、相続税や贈与税における高額な税負担が想定されます。また、自社株を後継者に集中的に承継する道筋を立てていないと、相続発生後に遺産分割協議に時間を要した場合などには事業承継が長期化するリスクが高まります。

■課題を解決するために利用できる公的制度、民間の専門家

これらの事業承継の現状や課題を解決するために、国が整備している制度をご紹介し、その制度を活用するために事業承継の専門家を紹介いたします。

◇事業承継・引継ぎ支援センター

経済産業省や各都道府県の商工会議所が行っている事業です。

後継者のいない中小企業者や、その経営資源を引き継ぐ意欲のある中小企業者に対して、課題解決に向けた助言や情報提供などを行います。また後継者がいない場合、第三者へのM&Aのマッチング支援なども行います。

◇経営承継円滑化法

平成27年8月に制定された法律で、事業承継の円滑化を図ることを目的とした各種措置を講じています。

・事業承継税制

現経営者から後継者に移転された自社株にかかる相続税・贈与税について、後継者の事業継続など所定の条件を満たすことで、納税の猶予や免除がされる制度です。

・遺留分に関する民法の特例

後継者を含めた推定相続人全員が合意することで、遺留分の算定基礎となる「相続財産」から、現経営者から後継者に移転された「自社株」を除外するといった取り決め(除外合意)などが可能です。なお、この取り決めをするには一定の要件を満たしていることが条件となります。

遺留分については以下の記事で解説しています。ぜひご覧ください。

事業承継で問題となる「遺留分」とは?遺留分に関する民法の特例の詳細や具体例も解説

・経営承継円滑化法による金融支援

事業承継時に、都道府県知事の認定を受けることができれば、以下の公的な金融支援が受けられます。

①株式会社日本政策金融公庫等の融資:後継者が株式取得資金などに関する融資を受けることができます。
②信用保証協会の保証枠の別枠整備:事業承継にかかる資金について、通常の保証枠と別枠での信用保証を利用することができます。

・所在不明株主に関する会社法の特例

株主名簿に記載がある所在不明株主の保有株式について、経営承継円滑化法に基づく認定を受けることで、株式の取得に要する手続きの時間を短縮することが可能です。

◇事業承継・引継ぎ補助金

事業承継やM&A(事業再編・事業統合等。経営資源を引き継いで行う創業を含む。)をきっかけとする経営革新など、後継者の新たな挑戦を支援する補助金です。

中小企業が事業承継やM&Aをきっかけに経営革新等(事業再構築、設備投資、販路開拓等)を行う場合、設備投資・販路拡大等に必要な経費を支援してくれます。

補助金の上限は、経営革新等の場合250~500万円以内(上乗せ額200万円以内)、補助率の上限は経費の1/2です。

◇経営者保証に関するガイドライン

現経営者の個人保証について、適切な見直しを可能とするガイドラインです。事業承継時において一定の要件を満たす場合には、既存の保証契約の解除や適切な保証金額への見直しが行える場合があります。現経営者の個人保証を後継者にそのまま引き継がせるのではなく、改めて保証契約の必要性や適切な保証金額について検討することができます。

◇各種専門家への相談

他にも、事業承継について深くサポートができる専門家・機関は以下の通り多数存在します。

・税理士
・公認会計士
・弁護士
・中小企業診断士
・金融機関
・商工会議所/商工会
・中央会
・認定経営革新等支援機関
・公的機関

これらの専門家にうまく頼って、二人三脚で事業承継を進めていきましょう。

まとめ

中小企業の事業承継には、経営者の高齢化や事業承継対策が進んでいないなど、様々な課題が存在します。一方で、それらの課題を解決できる各種対策も多数存在します。一人で抱え込まず、国の制度を利用する・専門家に相談するなどうまく助けを借りつつ、早めに事業承継の準備を始めておきましょう。

監修 TOMAコンサルタンツグループ コーポレートアドバイザリー部

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