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藤間秋男の元気が出るブログ:明るく楽しく元気前向き情熱ありがとう通信

『お母さんの最後のお弁当』(鎌田 實)第2986号


僕が看取った患者さんに、
スキルス胃がんに罹った女性の方がいました。
余命3か月と診断され、
彼女は諏訪中央病院の緩和ケア病棟にやってきました。


ある日、病室のベランダで
お茶を飲みながら話していると、
彼女がこう言ったんです。


「先生、助からないのはもう分かっています。
 だけど、少しだけ長生きをさせてください」


彼女はその時、42歳ですからね。
そりゃそうだろうなと思いながらも返事に困って、
黙ってお茶を飲んでいた。
すると彼女が、


「子供がいる。
 子供の卒業式まで生きたい。
 卒業式を母親として見てあげたい」


と言うんです。9月のことでした。


彼女はあと3か月、12月くらいまでしか生きられない。
でも私は春まで生きて子供の卒業式を見てあげたい、と。

・   ・   ・   ・


子供のためにという思いが何かを変えたんだと思います。

奇跡は起きました。
春まで生きて、卒業式に出席できた。

こうしたことは科学的にも立証されていて、
例えば希望を持って生きている人のほうが、
がんと闘ってくれるナチュラルキラー細胞が
活性化するという研究も発表されています。


おそらく彼女の場合も、
希望が体の中にある見えない3つのシステム、
内分泌、自律神経、免疫を
活性化させたのではないかと思います。


さらに不思議なことが起きました。

彼女には2人のお子さんがいます。
上の子が高校3年で、下の子が高校2年。
せめて上の子の卒業式までは生かしてあげたいと
僕たちは思っていました。
でも彼女は、余命3か月と言われてから、
1年8か月も生きて、2人のお子さんの卒業式を
見てあげることができたんです。


そして、1か月ほどして亡くなりました。

彼女が亡くなった後、
娘さんが僕のところへやってきて、
びっくりするような話をしてくれたんです。


・   ・   ・   ・

僕たち医師は、子供のために生きたい
と言っている彼女の気持ちを大事にしようと思い、
彼女の体調が少しよくなると外出許可を出していました。


「母は家に帰ってくるたびに、
 私たちにお弁当を作ってくれました」


と娘さんは言いました。

彼女が最後の最後に家へ帰った時、
もうその時は立つこともできない状態です。

病院の皆が引き留めたんだけど、どうしても行きたいと。

そこで僕は、


「じゃあ家に布団を敷いて、
 家の空気だけ吸ったら戻っていらっしゃい」


と言って送り出しました。

ところがその日、彼女は家で台所に立ちました。
立てるはずのない者が最後の力を振り絞って
お弁当を作るんですよ。


その時のことを娘さんはこのように話してくれました。


「お母さんが最後に作ってくれたお弁当は
 おむすびでした。
 そのおむすびを持って、学校に行きました。
 久しぶりのお弁当が嬉しくて、嬉しくて。
 昼の時間になって、お弁当を広げて食べよう
 と思ったら、切なくて、切なくて、
 なかなか手に取ることができませんでした」


・   ・   ・            ・

お母さんの人生は40年ちょっと、とても短い命でした。
でも、命は長さじゃないんですね。

お母さんはお母さんなりに精いっぱい、
必死に生きて、大切なことを子供たちに
ちゃんとバトンタッチした。


人間は「誰かのために」と思った時に、
希望が生まれてくるし、
その希望を持つことによって免疫力が高まり、
生きる力が湧いてくるのではないかと思います。

(鎌田 實 著『生き方入門』より)


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